検査
俺はその日いつもより遅い時間に起きた。今日は仕事が休みだからだ。
でもいつまでも寝てはいれらない。今日は健康検査を受けに行く予定があるからだ。朝食を食べたら出かけなくてはならない。
簡単な朝食を済ませ、時計を見るとまだまだ時間に余裕がある。
俺は歯磨きをする。入れ歯を外して、専用の洗浄器に入れてボタンを押すと、自動的に入れ歯をピカピカに磨いてくれる。
そう、俺の歯は入れ歯なのだ。こうなったのは数年前に大きな事故に遭い、歯を失ったからだ。
しかし、なんの不自由もない。最近の入れ歯の性能は良く、滅多なことでは外れることはないし、硬いものでも問題なく齧ることができる。しかも、わざわざ歯磨きしなくても洗浄器に入れるだけで汚れは取れるし、もちろん虫歯にもならない。入れ歯の方が本物よりもいいくらいだ。
俺はまた時計を見る。まだ時間に余裕があったので耳の掃除をすることにした。俺は右耳を取り外し、中に溜まった埃などを取り除いていく。
そう、俺の耳は本物ではなく義耳だ。しかし、見せかけだけのただの作り物ではなく、本物の耳と同じように音を感知し、脳に伝えてくれる高性能な機械なのだ。これも例の事故で両耳を失ったからだ。
しかし不自由はない。この義耳は本物と遜色ない、いや本物以上の性能があるからだ。普通の耳では聞こえない、小さい音を聞こえるようになったし、オーディオなどと繋げると音楽を義耳を通じて聴くこともできる。便利な耳だ。
俺はまた時計を見る。そろそろ出かけた方がいい時間になっていた。
「そろそろ出かけるか」
俺は家を出て、病院に向かった。
「お久しぶりですね。前にあったのはもう1年前ですか」
担当医が俺を出迎え、軽い挨拶をしてきた。この先生は俺が数年前に大事故に遭った時からの付き合いで、私の信頼する脳外科医だ。
「ええ、1年前の検査以来ですね」
「では特に不具合はなかったということでしょうか?」
「はい、先生のお陰で1年間無事に過ごせました」
「ははは、それは何よりですね。では検査を始めます。いつも通りすぐ終わりますから。ベッドにうつ伏せになってください」
「はい」
俺は先生の指示通り、ベッドにうつ伏せになる。そして、先生は俺の首の付け根にあるカバーを開けて、停止スイッチを押した。俺の意識が遠のく。やがて、頭のカバーが外され、俺の人工頭脳の検査が行われるのだ。
そう、俺の脳の大半は人工頭脳に置き換わっている。もちろん数年前の事故が原因だ。この先生は脳外科医であると同時に優秀な技師であり、あの大事故が起こってから俺の体と機械の治療と検査を担当してくれている。
それで、人工頭脳の使い心地だが、何不自由無く生活できている。いや、以前のポンコツな脳に比べるとはるかに高性能で……
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