第3話 日報「スイカ」

 スイカを喰らう。


 スイカとは、緑地に濃い緑のシマシマ模様がこびりついた丸い玉だ。


 ウリ科の植物で、果物ってヤツらしい。


 知らんけど。


 知らんのでオレが買ったわけではない。


 このシマシマ模様の丸いヤツは、隣人に貰った。


『冷やして食べると美味しいですよ』


 隣人は、そんな事を言っていた。


 デカいままじゃ冷蔵庫に入らねぇ。


 仕方ないから切る。


 安アパートの小さな流し台の上。


 シンクに半分引っ掛けるようにして置いたまな板の上に緑色の玉を鎮座させる。


 スイカってヤツはズシリと重い。


 それでも玉になっているから、意外と座りが悪い。


 転がっていきそうな玉を押さえながら包丁を入れる。


 サクッとした手応えとメリメリ自ら割れていくかのような感触。


 スイカの匂いがムワッと広がり、汁が滴る。


 中身は赤だ。


 皮の内側は、グルリと囲むように白い。


 緑地に濃い緑のシマシマ模様の表皮が思いのほか薄くて笑う。


 切ったついでに一欠片喰らう。


 生暖かいが、シャリシャリしていて甘い。


 それでいて、何となくヒヤッと熱を取っていってくれるような気もする。


「ん……コレ、冷やして喰ったら美味いな、きっと」


 切り分けたスイカにラップをかけて冷蔵庫へ入れた。


 そこから数時間。


 日はとっぷりと暮れている。


 太陽が沈んだからといって涼しくはない。


 日本の暑さ舐めんな。


 湿気と暑さが同時に来るのヤベェ。


 これは地獄にも取り入れるべき暑さだ。


 マジで地獄のカラッとした暑さのほうがマシだぞ。


 このヤベェ暑さは地獄に取り入れるべきだ。


 提案書でも書こうか?


 夕食を終え、二度目の風呂から上がったオレは冷蔵庫を開けた。


 目的はスイカだ。


 一切れ取り出せば、手に伝わる涼感。


 ひんやりした感触からして心地よい。


「シャリ」

  

 一口喰らう。


 甘さと涼しさが口から入って来る。


 風呂上り。


 サッパリとはしたが、熱くなった体と暑い部屋に涼しさはそれだけでも美味しい。


 更に甘いときたもんだ。


 甘いのに涼しい。


 不思議な感覚だ。


 赤い所を喰う。


 白っぽいトコや緑っぽいトコはダメだ。


 あそこは美味くない。


 涼しくはなるが美味くねぇからやめとく。


 風呂上りのスイカ、ヤベェ。


 止まらん。


 最初は皿。


 次はお盆。


 最終的にはシンク前に立って喰った。


 貪り食った。


 気付いた時には、貰った分のスイカは消えていた。


 コレ、気に入ったんで明日買ってこようと思う。




――――【日報 ココまで】――――



 

 初の日報はスイカについてだ。


 ジーサンからは怒られなかったから、これでいいようだ。


 ホント、何でもいいんだな。内容は。


 オレの素晴らしいスイカレポートにより、ジーサンもスイカを喰いたくなったらしい。


 送れ、というので道の駅で買ってきて、魔法転送の術を使って送ってやった。


 ジーサンに送ったスイカは、道の駅で880円の小ぶりのヤツだ。


 十万だった、とウソついたら、駄賃込みで百万くれた。


 チョロい。


 また送ってくれ、だとよ。


 今更ながら地獄の金銭感覚どうなってんの? とは思ったが。


 人間界は金の使い道イロイロあるから有難く貰っといたわ。


 せっかくなんで、追加で100玉ほど送っといたけど。


 あと、アレだな。


 スイカを丸々一個、一日で喰ったあと。


 トイレに何度も行かなきゃならなくなった事を書かなかったオレの勝利だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る