第16話鼠月羊日『異世界の事情に足を踏み入れ始めたw」



 絵をやる人なら大体の人が直面するであろう、『いつ書き終わりにするか問題』に悩まされ、制限時間を設けることにした。


 五時間である。


 デッサンで考えると短めな感覚(俺的には)だが、天使を座らせ続ける時間としてはやや長めな気がする。

 最終的に、ハーゲンダッツを30個以上も消費してしまった。途中でドンジャラちゃんが買い出しに行かなければ足りなかった。



「というわけで講評会である」



 講評会。


 まず、四人の順位をぽっぽがつけることになった。

 ぽっぽは木のスプーンを咥えながら並べられた俺、ユキノブ、セイコさん、ドンジャラちゃんの絵を行ったり来たりしている。


 かわいい。


 ぴょんぴょんしたり、絵の前であぐらを掻いたり、その場で寝っ転がったり…。

 五分くらいしてからその小さな体と同じほどのサイズの絵をせっせと並び替えた。


 結果は、セイコさん、俺、ユキノブ、ドンジャラちゃんの順になった。


 負けた。普通に負けた。


「ホクサイ、元気だしなよ」


「ホクサイくんもうまかったよ。奥原さんがすごすぎただけで」


 ユキノブとドンジャラちゃんが慰めてくれた。

 ちなみに『奥原さん』はセイコさんのことである。忘れていそうなので一応言っておいたよ。


 とはいえいくら慰められたところで俺のプライドが傷ついたのは事実だ。悔しすぎる。


「セイコさん、どこかで…」


「初めてだよ」


「――――」


 嘘だ。美術の授業とかでやる機会があったんだ。それとも美術部だったり。そうだそうに決まってる。


「嘘だよホクサイ。ごめんごめん。私、芸大現役で受かって、中退したんだよ」


「――――は?」


 何を言っているんだこのお姉さんは。


「別に大卒じゃなくても異世界にはいけるしね。受かった事実があればそれでいいやーってな感じでやめたんだよ。だから気にすることはないよ、ホクサイ」


「そう、ですか」



◇◆◇◆◇



 ユキノブとドンジャラちゃんは帰り、俺はセイコさんとぽっぽと共に、爆発が起きた魔法陣に向かい合っていた。


 ドンジャラちゃんはどこに帰ったのだろう。大丈夫かな。まあいいか。


「この魔法陣がどうしたんですか、セイコさん」


 自分で描いた魔法陣を顎に手をやりマジマジと見つめるセイコさん。

 この魔法陣によりドンジャラちゃんが召喚されたということだったよな。


「ホクサイ、問題です」


「あ、はい。どうぞ」


 セイコさんは悪戯っぽく笑いながら近づいてきた。


「問題、世界はいくつあるでしょうか」


「えっと、少なくとも二つはありますよね」


「うん、察しが良いね、ホクサイ」


 今俺たちがいる世界とレーマ王国がある世界。


「カラスは黒いを証明するより、白いカラスを見つけた方が早いのと同じだよ。実際アルビノ種は存在するだろうし。だから『世界は一つしかない』と思わず、私は二つ目の世界『異世界』を探していた」


「それで実際にあったわけですよね、異世界が」


「そう、あった。世界は一つじゃなかった、二つあった」


「二度あることは三度ある、ですか」


「そう。多分ドンジャラちゃんはぽっぽとは違う世界の住人だ。もちろん地球ではなくてね」


 第三の世界。

 色々と難しくなってきたな。


「セイコさん」


「なんだい」


「イグニートに話してみよう」



◇◆◇◆◇



「なんでお前牛丼食ってんだよ」


「別にいいだろう。金は払った」


 俺が事情聴取を受けた建物に行くと、イグニートが騎士団メンバー三人で牛丼を食べていた。いや、一人は冬限定のすき焼きのやつだ。


「イグニート、誰?このお兄さんとお姉さん」


 青髪の小柄な少年が口を開いた。


「オクハラセイコさんだ。別世界の住人。こちらの世界に初めてコンタクトをとった偉人だ。男の方はホクサイだ」


 俺の説明短い!てか説明されてない。


「なるほど、ありがとうイグニート。初めまして、ボクはアドリア。牛丼すごく美味しいです。ホクサイさん、仲良くしてくださいね」


 ウィンクがかわいい。いや男だけど。いや待てよ…、


「ダイバーシティなピリオドにアウトなクエスチョンかもだけど…、テルミーあなたの性別」


「『性別』もカタカナでいいなよ、ホクサイ」


「いやそれはマジでアウトだよ。流石に無理です」


 最近カタカナ多くて大変だよね。


「男です」


「男だよね。知ってたよ」


 アドリアは元気よく答えた。ちょっと幻想抱いてたぜ。


「で、そちらは?」


 赤髪の女性。こっちが本命。いや本命はユキノブだけど。


「イデア。牛丼よりすき焼きの方が好き。モグモグ」


「モグモグって…」


 口で言ったぞ今。


 ツッコミを無視し、俺の顔を一度も見ずにすき焼きを食べ続けるイデア。


 深緑の髪のイグニートと青髪のアドリア、赤髪のイデアが並ぶとなんだかポケモン御三家みたいだ。ニート立つな。個人的にはアドリアをゲットしたいぜ。


「で、何の用だ?」


 牛丼を食べ終えたイグニートが箸を置いて聞く。


 それに俺とセイコさんは同時に答えた。


「「ぽっぽって何者?」」

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賽銭箱に財布投げたらラブコメできるようになったw テタンレール @wasdking

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