賽銭箱に財布投げたらラブコメできるようになったw

走るニート

 活動範囲:現代日本

第1話1月1日『賽銭箱に財布投げたらラブコメできるようになったw』


「友達、いや――」


 友達。俺が欲しいのはそんなものじゃない。友達なんて作ろうとすれば作れるし、それ以前にいたところで俺に何かメリットがあるわけでもない。それならば――――、


「俺は彼女が欲しい」


 俺は渾身のイケボで神に祈った。


◇◆◇◆◇


 2030年1月1日、元旦。俺、葛飾北斎(カツシカホクサイ)20歳は近所の神社で賽銭箱に金やカードが色々入った財布をそのままぶん投げててバカみたいな初詣をかましてやったw。


 後悔なんてしないし、周りの人の目なんて気にしない。どーせバカなみんなは「家族が健康で…」とか「二酸化炭素を減らしてくれ…」とか言っているのだろう。去年まで「イケメンになりたい」と祈り続けていた俺は今年変わった。イケメンになったところで彼女ができるわけではないのだ。


「ホクサイ?やっぱホクサイだ!お母さんホクサイだよ!中学の時隣の席になったことあるホクサイ」


「ホクサイホクサイうるせぇな!なんなんだよ!?ユキノブ!?久しぶりじゃあねえか!」


 怒りと驚きと喜びが混ざり合いテンションがおかしくなる。

 彼女の名前は清原雪信(キヨハラユキノブ)。長い黒髪の女性。ロングコートがとても似合ってる!中学3年生の時、隣の席になった子だ。それ以来話していない。


「今何してんの?」


「初詣終えたところ」


「違うよ!大学とか」


「してない」


「そっか…。ごめんねホクサイ…。あ、あけおめ」


「あけおめ」


 気まずい!

 雪信は中学の時、クラス、いや、学校、いや、日本のマドンナだった。そんな子と隣の席だったなら何かときめくラブコメがあったのではないかと聞かれるかもしれないが、特になかった。

 俺は中3になっても厨二病を抜け出せずにいて、暇な時は漫画を描くか、勉強していた。包帯巻くタイプの厨二じゃなくてマジで良かったと思ってる。

 一方ユキノブの方だが、俺が描いた漫画を横で見ているか、勉強していた。当時、俺の方が頭が良かったので二人でテストの一位を争うなんてことはなく、俺が一位、ユキノブが十位くらい。というのを繰り返していた。


「ホクサイくん。あけましておめでとうございます。お母さん先帰るからね?ゆきちゃん?」


「わかった!」


 ユキノブの母は俺に丁寧なあけおめをして退散した。


「ホクサイ、LINE交換しようよ」


 ユキノブ母が退散した流れに乗って気まずい雰囲気を破壊していこうとしてくれているユキノブ。

 LINEはメールアプリのこと。友達がいない俺でも家族間でやっている。スタンプ機能が楽しくて流行ったみたいだ。


「ほい!QRコード!」


「はや!」


 音速でQRコードを提示。我ながら素晴らしい。

 四人目の友達ができた。父、母、家族共用タブレット端末、そしてユキノブ!


「プロフ写真、猫?かわいいね!飼ってるの?」


「違う。YouTubeで見つけた。可愛いでしょ?」


「そ、そうだね。かわいいね」


 小学生の時親に頼んだが、金がかかるから飼わせてもらえなかった。


「親帰っちゃったみたいだけど平気なん?ニートだからって憐れむなよ?」


「ニートね。憐れんでない…と言うわけじゃないけど、どうしてそうなったかは知りたいかな。すっごく頭良いイメージだったからさ」


「芸大受けて、落ちて、受けて、落ちて、やめて、ニートの完成」


 俺は芸大一浪までやって諦めたのだ。あんなの無理無理。勘違いしないで欲しいが、これから俺が芸大に再挑戦して合格するまでの美大受験啓発ではない。俺はニートを貫く。


「絵うまかったもんねー」


「絵で人生狂ったんだけどな?」


「ははは」


「HAHAHA!」


 整理しよう。財布丸投げした途端、世界のマドンナが目の前に登場アンド連絡先ゲット。


――やはり神はいた。


「じゃ、後で連絡するね。暇ならたまに遊ぼうよ」


「いつでもOK。だって俺ニート」


「誇るな!じゃあね!」


 ユキノブは手を振って母を追った。

 俺も帰るとしよう。後で連絡は確定。自宅で気長に待ちますか。


◇◆◇◆◇


「あ、ホクサイ。あけましておめでとう。珍しいね外出なんて」


「あけおめ。どこ行くの?初詣?」


「うん。詣でてくるわ。じゃあね。あけましておめでとうございました」


「聞いたことないよそれ」


 彼女の名前は奥原静湖(オクハラセイコ)。数年前に隣のアパートに引っ越してきたホクサイより一つ年上の人。何をしてるかわからないがいつも顔色が悪いので少し心配だ。


 玄関を開けて「ただいま」からの手洗いうがいを決めて自室に籠るはずだったが、


「あけおめ、弟よ」


「あけおめ、ホクサイ」


「――――あけおめ」


 姉と一人の少女が俺の部屋のベッドでゲームをしていた。正月なので姉が帰ってきたのは知っている。問題はその隣の少女。


「どなた様で?」


 綺麗な長い白髪に黒目。異世界の人みたいだ。


「異世界から来た。これからホクサイの家住むよ」


 異世界の人みたいだ。後で詳しく聞こう。


 元同級生、隣の謎の人、異世界人。

 俺のはちゃめちゃなラブコメが始まる。


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