第11話 ひまり 1
向日葵は、ママが大好きな花だったらしい。
まだ夏には少し早かったけど、初夏に生まれた娘に、太陽に向かって顔を上げていている向日葵のように明るく元気に育って欲しいと、響きも柔らかな「ひまり」
と名付けてくれた。
けど、ママは元々体が強くなかった。
子どもを身籠った時も、パパは複雑だったみたい。嬉しいけれど、ママが心配で。パパが体調面の不安から、ママにいろいろ聞いたけど、ママは頑なに産むの一点張りだったようだ。
そして、パパの懸念は現実になってしまう。
ママは産後の肥立ちが悪く、私を産んでひと月で儚い人になってしまった。
それでも、そのひと月は、奥様も旦那様もそれはそれは幸せそうでしたよ、と、パパの秘書の
森山家は、代々の資産家だ。仕事が趣味のような人が代々多いようで、パパもそう。頼くんはパパの従兄弟でひとつ下だったかな。まあ、森山グループの創始家一族ってやつ?でも昔から本当に仲良しだったみたいで、他の人はどうでも、パパも頼くんの言葉には耳を貸すようだった。
元々パパは顔の作りは悪くないけど、無愛想でちょっとコミュ障で。人懐っこい頼くんがいてくれて、ずいぶん助けられていると思う。
ママとのキューピッドも頼くんみたい。
体の弱いママは、自分が森山家に嫁ぐのを躊躇していたらしいから。でも、少し体が弱くても、アグレッシブで賢くて、パパと違ってコミュ力強くて、しかも美人で、とても素敵な人でした、と、これも頼くんから聞かされた。
ーーーそれから2、3年で、本人に逢うようなことになるなんて、思っていなかったけど。聞いていた通りの人だったーーー
さっきから、頼くん、頼くんて、私が頼くん話についなってしまうのは、お察しの通り。
ママが儚くなってしまってから、パパはますます仕事一辺倒になってしまったから。
今は私がこうなったから、理解できる。
当時、パパが手掛けていた家族向けのリゾート開発は、ママとの最後のお仕事で、二人の夢だったから。ママもパパの右腕だったのよ。敏腕営業マン!
だから、必死だったのだ。きっと、ママの面影も探して。
私のことも、パパは完全に蔑ろにしていた訳じゃなかった。誕生日のプレゼントももらっていたし、七五三とかもちゃんとやってくれた。けれど、いつもパパの笑顔は複雑で。抱き締められた記憶はなかった。
きっと、パパは強くない。ママを失くした原因とも言える私に、きっと複雑な思いがあったのだろう。
ーーーそう、思っていた。
あの日。
私の7歳の誕生日。
毎年、私の誕生日にパパは仕事でいなくて、代々仕えてくれている関じぃと、お手伝いさんをしてくれている関じぃの奥さんがささやかなパーティーを開いてくれていた。けど、その年は私はワガママを言ったのだ。パパも一緒にいて欲しいと。
その頃には、周りの家族を見て、私なりに不安だったのだ。パパは私を愛してくれている?パパは私を見ていないんじゃないかって。
だから、いつも聞き分けよく、いい子にしていたけれど、初めて自分の気持ちを言ってみた。
パパは一度は約束してくれたけれど。
当日、どうしても仕事に戻らなくてはいけないようなトラブルが発生したとかで、お昼から予定のパーティーが延期になってしまい。
「パパなんか大っ嫌い!本当はひまりなんていなくたっていいんだ!!」
と、叫んで家を飛び出して。
物語のような魔のタイミングで、私は交通事故に合う。全くもって、笑えない。
言い訳をしようとするパパの手を振りほどいて、部屋を飛び出して走り出して。
いつもはきっちり閉まっている門も、パパの外出予定から、開いていて。
ちょうと私がそこへたどり着いた時に、目の前で車同士の衝突事故が起きて、ぶつかった片方の車が私に向かって飛び込んで来て。
周りの悲鳴と、いろんな人の泣き声と必死な声と。
パパが少し遠くで呆然としている姿を見ながら、私は意識が無くなる自分を認識していた。
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