第5話 真実

「ボス。言われた通りやってきました。」

中川ひろしはボスに報告を行っていた。

「そうか。あの話は本当だったんだな。」

「はい。間違いありません。」

そう聞くと、ボスは不気味な笑みを浮かべた。

「まさか本当にあいつが専属SPに返り咲いたとは、いじめ足りなかったかな。まぁでも、前向きでいられるのも今のうちだ。」

「本当にやるんですか?」

中川は不安そうな様子を浮かべた。もしこの計画が失敗すれば、FOXは終わりだ。

「当たり前だろう。なんのためにここまでやってきた。奴らは俺たちの狙いは杉下美雪の殺害だと思っている。」

「え?違うんですか?」

「バカか。美雪を殺したいだけならあんなマネしなくたって他にもやりようは有る。」

「では、他にも目的がおありで?」

中川はFOXの中で身分はそこまで高くないので、言われた通り実行するだけで詳しいことは聞かされていないことが多い。

「お前も知っている通り、森下純也は化け物だ。100年に1人ってレベルの身体能力の持ち主。だからあいつも完膚なきまでに叩く。」

そのためにこの5年間世間への根回しを地道にやってきた。美雪を殺す。それだけでも十分だろう。だが、

「予定の日に日本中に真実をばらまく。そっからが始まりだ。きっとあのお方もお喜びになるだろう。」

あのお方はすごい。先を読み計画的に行動している。そして、今のところあのお方の読み通りに事は進んでいる。

「じゃあ、あのお方に会って報告をしてくる。留守頼んだぞ。」

この計画が成功すれば、今の芸能界は終わる。専属SP出現で失われた俺たちの地位を取り戻す絶好の機会だ。

「報告に参りました。慎吾様。」

俺は、森下純也が専属SPをしていること、根回しは済ませたこと、相手は杉下美雪であることを伝えた。

「ご苦労。全て僕の思った通りになっているね。」

「はい。お見事でございます。」

FOXのボスとして、このお方とは上手くやっていかないといけない。この人のおかげでFOXはここまで大きくなったのだから。

「しかし、なぜそこまで杉下家を恨まれているのですか?」

「ふふふっ。まさか君まで勘違いしているとは。」

「勘違い、ですか?」

杉下家を恨んでるというのはこの方から直接聞いたはずだが…

「僕の本当の狙いは森下純也だよ。」

「そうなのですか?それはなぜ?」

「時期が来たら教えるよ。下がりなさい。」

今こいつに教えない理由もないが、これはギリギリまで隠しておきたい。僕と森下純也には因縁がある。あれはあいつが専属SPを始めてすぐの頃だったか。僕は芸能界の崩壊を望んで、それを実現させるためにとある大手芸能事務所の襲撃を計画していた。我ながらいい計画だった。1年かけて人を集め、ようやく決行できる、はずだった。しかし、森下純也は相当な切れ者だった。彼は僕が準備を始めた頃からそれを察知し、綿密に作戦を練って僕の野望を完全に潰してきた。僕は過去にもいろいろやってきたが、失敗というのはそれが初めてだった。事件後に聞いた話では、僕の手下は全員彼に捕らえられたそうだ。それから僕は彼への復讐を企んだ。彼が執着している幼なじみがいて、その母親が大女優杉下真美だと知った時は喜びを隠せなかった。美雪を殺すという選択肢もあったが、母親を亡くした美雪を残しておくほうが彼には精神的苦痛が大きいだろうと考えた。案の定彼はこの事件後SPをやめた。だと言うのに、また復帰してくるとは。これは正直想定外だったな。彼は強そうに見えてメンタルは意外と弱い。もう立ち直ることは不可能だと踏んでいた。しかし、予想以上に彼の美雪への思いが強かった。本当に、愛というのは侮れない。だが、おかげで話がおもしろくなってきた。これからはFOXの馬鹿どもを使って彼の体力を削る。FOXの連中では彼に勝てないことはわかりきってる。完全な捨て駒だ。奴らを配下に組み込めたのは大きかったな。よく働いてくれている。

「ゆき、僕の計画はどうかな?」

「完璧でございます。このプラン通り進めることができれば森下純也など敵ではありません。」

このゆきという女はずいぶん昔から僕に仕えている。頭も良いし使い勝手がいい。

「そうだね。でも油断しちゃいけないよ。プロの世界は一瞬の隙が命取りになるからね。」

僕は絶対に油断しない。用意周到に事を進め、ここぞという時に僕の手で森下純也を殺す。それもただ殺すだけでは気が済まない。より残酷に殺してやろう。

「慎吾様、決行日はいつを予定されているのですか?」

「そうだね。今美雪は主演を務める映画の撮影中だ。ということは、世間に1番衝撃を与えるのに有効なのは、映画公開当日の8月10日だ。」

「映画撮影中に決行して、映画が撮れなくなる、とかの方が影響が大きい気も致しますが…」

「たしかにそうかもね。でもそれはやめといた方がいい。おそらく今回の拳銃の件で森下純也は警戒を強めるだろう。しかし、映画公開の日。その一瞬だけ彼の警戒心が薄くなるに違いない。そこを狙う。」

なんといっても相手はあの森下純也だ。こちらのアドバンテージを確立したうえでのぞまねば返り討ちにされるのが落ちだ。

「それより、あいつを連れてきてもらえるかな。」

「かしこまりました。」

美雪は専属SPのことを公表しなかった。おそらく彼の提案だろう。ということは十中八九FOXに目をつけているはず。彼の性格上、向こうから先手を打ってくるだろう。まぁ最悪FOXが壊滅状態になっても手はいくらでもある。

「連れてまいりました。」

「ご苦労。」

ふふっ。この事実を知ったら彼と美雪はどんな顔をするだろうか。想像するだけで心が踊るというものだ。

「こらこら。暴れちゃいけないよ。心配しなくても時が来たらちゃんと釈放してあげるさ。君に用はないからね。それまでは我慢しててよね、杉下真美。」









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