リスタート
ラムネ太郎
第1話 再会
近年、芸能人を狙ったストーカーや殺害、殺害予告が爆発的に増え、『 専属SP』という職業がうまれた。この職業は、特別な訓練を受けた者が芸能人に雇われ、その人の専属の警護人になるというものだ。雇うかどうかは基本的に個人の自由で、強制はされていない。そしてこれは、そんな芸能界に飛び込んだ少女と、その少女を守るために全てを捧げた少年の物語だ。
俺は森下純也。25歳ニートだ。といっても、ずっと遊び呆けていたわけではない。16歳から20歳までは専属SPをやっていた。20歳の時、俺は幼なじみの杉下美雪の母親であり大女優だった杉下真美の専属SPをしていた。そんなある日、たまたま体調不良で俺が休んでいる時に、杉下真美が何者かに殺害され、犯人は逃走するという事件が起きた。この事件は芸能界に大きな影響を与え、その後俺は専属SPをやめた。あの日の美雪の悲しそうな顔を見てしまった俺には、仕事を続けることなどとてもできなかった。そして今俺は、中学の同窓会に向かっている。そこには美雪もいるが、あいつとは事件以来連絡すらとっていないので正直気まずい。あいつは今女優として活動していて、そこそこ売れているらしい。きっと母親譲りの天性の才能の持ち主なんだろう。
「うぃっす」
俺は周りに軽くあいさつをして、席に着いた。まだ先生はきていないらしく、みんなそれぞれの友達と喋っている。向かいには美雪の姿もあった。
「よぉ!久しぶり!」
よく遊んでた圭吾だ。
「久しぶり。そいや最近全然会えてなかったな。しばらく見ないうちになんか雰囲気変わったな。」
「そう?まぁ彼女できたし、男らしさってのがでてきたのかなー」
「へぇー。こんなやつでも彼氏にしてくれる人がいるのかよ」
こいつはけっこう人懐っこいタイプで、それ自体は問題ないのだが、よく度が過ぎることがある。
「こんなやつとは失礼な!そういうお前はどうなんだよ。」
「俺は恋愛なんて興味ねぇよ。」
「はーん。あんなに美雪ちゃんに一途だったお前がそんなセリフ言うようになるとはねぇ。」
「はぁ?誰があんなやつ好きになるかよ。」
まぁ実際一途だったのは事実で、なんなら今でも多少未練あったりするんだが、こいつに言われるとなんか腹が立つ。
「相変わらずわかりやすいやつ。ほら、もう先生入ってきたしこの辺にしよーぜー」
圭吾はニヤリと笑みを浮かべて前を向き直す。ほんとに、こいつの煽り性能の高さにはいつも驚かされる。
「みなさん、久しぶりですね。今日は同窓会という形になっていますが、こちらで何かやることを決めているわけではありません。せっかく懐かしい仲間と再会したんです。各々好きなように過ごしてください。」
先生がそういうと、みんなはまたそれぞれしゃべりだした。俺も懐かしいメンツに声をかけに行こうとしたその時、
「純也」
急に声をかけられた。振り向くと、美雪がすぐそこに立っていた。
「お、おぉ、美雪か。久しぶり。」
「うん。ちょっと話があるんだけど。」
そう言うと、美雪は誰もいない部屋に俺を手招きした。
「こんなとこで、何の話?」
人前を避けたってことはそれなりの話だろう。
「私さ、今女優やってるんだけど」
「うん。知ってるよ。」
「それで、今度大きな映画の主演を任されることになって、いよいよ本格デビューって感じなの。もちろん嬉しいことだし、楽しいことばっかなんだけど、不安なことも多くてさ。支えてくれる人が欲しいって思ったの。」
「マネージャーとか、支えてくれる人なんてたくさんいるだろ。」
「そうなんだけど、そういう事じゃなくて。これからはストーカー被害とか誹謗中傷もあるだろうしさ、そういうのも対策してきたくて、」
その言葉で、俺はピンときてしまった。
「それってもしかしてさ…」
「うん。私の専属SPになって欲しいの。」
その瞬間、俺は頭が真っ白になった。今の時代、専属SPを雇うというのはそんなに珍しい話ではない。ただ、なぜ俺に頼むんだ?そもそも俺は美雪に嫌われていると思っていたし、専属SPを頼まれるなんて考えもしなかった。今すぐに答えをだせそうな問題じゃない。
「うーんとさ、急なことで俺も頭の整理が追いついてないから、少し考えさせてもらっていいかな?」
そう言うと美雪は、「わかった。いい返事を期待してるね」と言って部屋を後にした。とても同窓会を楽しむ気分ではなくなった俺は、学校から出た。さぁ、どうしようか。美雪とは連絡こそとっていなかったものの、SNSはよく見ていた。だから、どのくらいの知名度なのかとかはだいたいわかってる。たしかに、専属SPを雇うべきラインではある。だが、正直俺は乗り気じゃない。そもそも俺はまだあの事件から立ち直れていないし、真美さんを救えなかった俺に美雪の専属SPが務まるとは到底思えない。俺には5年間のブランクもあるし、精神面と身体面のどちらを見ても、断るのが正しい。だが、心のどこかでは、美雪にまだ必要とされてることに喜んでいる自分がいる。こんなことをダラダラと思いながら、俺は行きつけのバーに入った。
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