第32話『期待に応えたい本心で』
「――いってらっしゃーい」
俺はなんとなく流れを理解できたが、
だけど、動かしたい体を抑えることはできず、一旦は了承してくれた。
そして、2人はさっそくモンスターへ一直線で駆け出していく。
「それで、これからどうするんですか?」
「さっき言った通りだよ。時間になるまでお手伝いしようって話。でも、ちゃーんと嬉しい方とそうじゃない方のお土産も用意してあるから」
「聞き捨てならない内容がサラッと出てきたと思うのですが、気のせいですか」
「ふっふーん。でも、絶対に楽しくなるよ~」
「あの子たちの実力を見極めながら、まずは嬉しい話からしちゃおっか」
「――お願いします」
「まずは、悪いことをしてるってわかってはいるけどリーダーには事の顛末を詳細に話をしちゃった」
「全然問題ないですよ。時間を使ってもらって指導までしてもらっちゃったんですから。報告するのは当然だと思います」
「理解してくれるの助かる~。でねでね、リーダーがシンくんのことをベタ褒めだったんだよ」
「え?」
「見込み通りだったのと、『短期間の訓練だったというのにしっかりとスキル獲得という成果を上げたんだから』、だって。本当にその通りだね。私だって同じことを思ってるんだから」
「ほ、本当ですか!? だ、だって俺、まだ完璧にスキルを発動できないんですよ!?」
俺がスキルを安定して発動できないのは、偽りのない事実だ。
たしかに、3日間でスキルを発動させたということは功績を上げたということになるのかもしれない。
だけどそこまでだった。
解散の時間になるまで
トントン拍子で上手くいかないのは世の常であるけど、スキルが発動できたときの自信と高揚感は、最後には
「自分を過大評価して調子に乗るのはよくないだけど、それと同じく、自分を過小評価して自信を無くすのもよくないからね。シンくんは十分に成果を上げた。これは、紛れもない事実なんだよ」
「……でも、マイナス方面に考えなかったら、俺――物凄く喜んじゃいますよ」
「それはいいでしょ。盛大に喜んじゃえ」
こんなの、嬉しくないわけがない。
だって、あの、俺が憧れている【
とういうか、嬉しいだけで済ませていい感情じゃない。
あの!
みんなの目があるから、さすがに叫んで走り回れないけど、今すぐに「よっしゃああああああああああああああああああああ」って叫びたい!
脇目を振らず、全速力で駆け回りたい!
「シンくん、大丈夫そう? 表情が騒がしいことになってるし、鼻の息がとんでもなく早くなってるけど」
「え、えぇ!? そーうですか? 俺は至って平静ですよ。ええ」
「あいやー、今すぐにでも叫んで走り出しそうな形相をしてるよ」
「そそそそそんなことがあるわけないじゃないじゃないですかかかか」
「なんか口調とかテンションがおかしいことになってるよ」
「至って冷静ですよ、ええ」
頑張って平静を保とうとしていても、溢れんばかりの喜びを抑えるのは限界に近いかもしれない。
落ち着けー、落ち着けー。
今の俺はパーティのリーダーなんだぞ。
こんな浮かれた状態でここから戦うなんて絶対にダメだ。
深呼吸、深呼吸――深呼吸。
「まあ、じゃあ次ね」
「お願いします!」
「凄い前のめりだね。それで私ははん――」
ん? はん?
続きが気になるけど、
よくない感じの内容っぽいから、言葉を選んでくれているんだろう。
「今日の大目標として、階層ボス討伐をしようって話なんだけど」
「え。ごめんなさい。たぶん今、ありえない聞き間違いをしちゃったので、もう1度お願いします」
「階層ボスを討伐しようって話」
「え……? か、階層ボスですか……?」
「うん。言いたいことはわかるよ、3日間だけど一緒に活動していたんだし、いろいろと事情も知ってる。でも、これはリーダーからの提案だったりするんだ」
「
「私たちは、これから階層ボスを討伐してもっと先に進む予定。で、もしよかったら討伐してもらえると回復薬とかを節約できたり披露しなくて済む。ってな感じで。当然、報酬だったり回復薬補填分のお金は支払うから。という内容で」
「……」
必死に思考を巡らせ、伝えられた内容を飲み込もうとしても正直よくわからない。
いや……理解しきれないのは、俺たちみたいな初心者にボス攻略なんて無理だ。
天と地がひっくり返っても――。
「――だから夏陽さんが、合流したということですか」
「そうそう、そういうこと」
「スキルを所有しておらず、戦闘経験が少なく、知識も浅い2人を護ってくれるため」
「うんうん、さすが」
「期待に応えてみてほしい。そういうことですか?」
「あっちゃー、そこまで行き着いちゃうか」
「数日前の俺だったら、全く理解できなかったと思います。でも、嬉しいことに義道さんは俺を気に掛けてくれている。そして、夏陽さんの口から期待されている旨を聞かされていましたので」
「はぁ。だったら、私も演技する必要はないね。さっき言いかけたんだけど、私はこの提案を反対した。だって、どう考えって異常だもん」
「でも、ということは――これは、俺にとっての試練ということなんですよね」
「うん。ありえないぐらいほど辛い、ね」
「……」
夏陽さんの考えは理解できた。
そして、俺が懸念するような条件を排除してもらっている。
要するにお膳立てしてもらっているということ。
だったら、せっかく義道さんが俺に期待してくれているんだから応えないというのは失礼すぎる。
だが、それでいいのか。
俺は今、パーティリーダーだ。
自分の意見だけで、
いくら
昨日の記憶が鮮明に蘇る。
……もしものことが、あるはずはない。
夏陽さんは、何度も階層ボスを攻略しているはずだし、たぶん単独でも討伐していると思う。
そして、あの圧倒的な強さは絶対だ。
「どうする? 私がパッと倒しちゃって、見学会みたいにしちゃってもいいよ。その代りに言い訳を一緒に考えてもらうけど」
表情変えず、その提案をしてくれるということは、たぶん瞬殺なんだと思う。
なら俺は挑戦してみてもいいんじゃないか……?
たぶん俺のスキルを考察してくれたんだと思う。
その結果、階層ボスを討伐できる、ということになった。
だからこその提案のはず。
「夏陽さん」
「はいはい」
「俺、挑戦してみたいです」
「うんー……わかった。シンくんがそう決めたなら、それを尊重する」
「ありがとうございます」
「絶対にあの子たちは私が護り切るから。頑張ってね」
「それでなんですけど、2人にはどうやって説明すればいいでしょうか」
「だよねー。リーダー曰く、『説得の材料は、
「……」
「シンくんには大変なことかもしれないけど、向き合うときが来たってことかな」
――自分の弱さと向き合う時が来た。
俺が無茶な提案をしたとき、2人はどんな表情をするんだろう、どんな言葉が返ってくるんだろう。
もしかしたら、猛反対されるかもしれない。
もしかしたら、帰ってしまうかもしれない。
もしかしたら、金輪際の付き合いがなくなってしまうかもしれない。
ただ臆病になっているわけじゃなく、自分で経験した過去があるからこその恐怖心だ。
――でも、俺の夢と目標は明確だ。
「わかりました。俺がちゃんと話をします」
憧れの人に期待されているのなら、それに応えたい。
どうしようもなく馬鹿なのかもしれないけど、俺にとってはかけがえのないことなんだ。
「うん。頑張ってね」
夏陽さんの表情は優しく、言葉だけではなく真っ直ぐな目線でも応援してくれている。
そうだ、夏陽さんの期待にも応えたい、応えたいんだ。
怖気ずくな、やるんだ俺。
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