第7話『パーティを組む人が、まさかの!?!?』

「さて、お腹も一杯になったところで」


 デザートに揃って濃厚なプリンを食べている最中、お姉さんはそう切り出した。


鍛誠たんせいくんって探索者だよね?」

「えっ、はいそうです」

「なら良かった。実は私も探索者なんだ」

「おぉ、そうだったんですね」

「そーこーで、提案があります」

「はい?」

「鍛誠くんって、今は誰かとパーティを組んでたりする?」

「一応、俺がリーダーでメンバーが2人居ますけど、用事があって数日間は単独行動ですね」

「あら、それならちょうどよかった」


 阿須野あすのさんはプリンを口に運ぶ。


「もし良かったらんだけど、期間限定でパーティを組まない?」

「え、そんな唐突に?」

「いつだって、パーティを組む時って突然じゃない?」

「それはそうですけど……冗談抜きで、俺はほとんど戦えないですからね。初心者の部類だと思ってください」

「全然オッケー。鍛誠くんは――」

「どうせパーティを組むんだったら、下の名前でいいですよ。そっちの方が呼びやすいと思いますし」

「了解。じゃあ、一心いっしんくん……シンくんとかどう?」

「はい、それで大丈夫です」

「じゃあ私も下の名前で呼んでもらおうかな」

「でもそれはちょっと違うような気がするんですけど」


 だってさ、俺の方が年下っぽいし探索者としての歴も長そうだし。


「ははーん、年上だからって遠慮してるんでしょ」

「それはそうですよ」

「でもこういうのって、最初が肝心だと思わない? 出だしから下の名前で呼び合えばそれに慣れちゃうと思うんだ」

「それもそうですね」

「じゃあ決まりっ。私の事は夏陽かやって呼んでね」

「『さん』ぐらいはつけさせてもらえますよね」

「それぐらいは許可しましょう」


 ほぼ同じタイミングでプリンを食べ終え、さんに奢ってもらい、店を後にした。


 パーティを組むのであれば、このまま探索者組合で手続きをしなければならない。

 もはやスーパーからは遠ざかって行ってしまうけど、この流れでは仕方がない。


「――なるほどねぇ。女の子2人とパーティを組んでるなんてモテモテだねぇ」

「そんな事はないですって。冗談はこの辺にしておいて、着きましたよ」

「シンくんって、ちゃんと女の子をエスコートできる男の子なんだね。優しい~」

夏陽かやさん、やめてくださいよ。もしかして、俺をからかって遊んでません?」

「いやいや~? 年下の男の子はみんなかわいいでしょ」

「ははぁ……」


 いつもの道を通って、いつものように大扉を開ける。

 いつものように館内をタッタッと靴音を鳴らしながら、いつもの受付場所へ向かう。


 だけど、何かが違った。

 なんだかわからないけど、いつものような賑やかな声は耳に届いてこない。

 いつもと変わらず、沢山の人が行き来しているし受付嬢もいつも通り。

 いつもと変わらないはずの日常だというのに、何かが変だ。


美和みより、今日もお仕事ご苦労様」

「……え、ええ」

「なあ、今日って何かイベントでもあったりするのか?」

「いや、そういった催しはないわ」


 最初のリアクションは少しだけ遅かった気がするけど、美和だっていつも通り。

 本当に何がなんだかわからない。

 もしかして、俺の聴力が低下してしまっているとか?


「ねえ一心。訊きたい事があるんだけど」

「なんだよ珍しい」

「他のみんなはもう確信しているようだから、私だけはまだ疑っておいてあげる。今からする質問に、嘘偽りなく答えてちょうだい」

「お、おう」


 なんだよ美和まで。

 もしかして俺、知らない内に鳥の糞でも頭にくっついてたりするっていうのか?

 それか、なんだかドン引きするような感じになっているのか?

 さっきから夏陽さんが俺をからかっているのにも関係しているのか……?


「そちらにいらっしゃる方は、どなた?」

「ああ、こちらは阿須野あすの夏陽かやさん。これから数日間だけ、一緒にパーティを組む事になった人なんだ。嘘偽りなんてないぞ。だから、真っ直ぐに美和が担当しているカウンターまで来たんだから。――あ、ちなみにだけどナンパしたわけじゃないからな」

「そうだね。逆に言ったら、私がシンくんをナンパした感じ。これぞ、逆ナンってやつ?」

「どっちも違いますよ。偶然にも出会って、偶然にも顔を合わせた事があったから。でしょ」

「おうおうシンくん、ようやく打ち解けて来てくれたね。私は嬉しいよ」


 俺と夏陽さんが話をしている最中、常に真面目な表情を貫き通している美和。

 もしかして俺、怒られるの? でも、おちゃらけてるのは夏陽さんのせいだよね?


「どうして出会ったばかりの人とシンがそんなに仲良さそう・・・・・にしているのか。それはとりあえずおいておいて。どうしてシンが、阿須野あすの様と一緒にパーティを組む事になったのか全く理解できない」

「そりゃあ、俺だってよくわかってないよ」

「だとすれば。阿須野様、シンは謙遜なしの初心者です。いたずらに連れ回そうと言うのでしたら、こちら側にも考えがあります」

「ちょっとちょっと、待ってよ。私は悪意を持ってシンくん……あなたの知人に手を出そうってわけじゃないよ」

「では、どのような理由がおありですか」


 なんだか俺、蚊帳の外になっていませんか?

 しかも美和は表情を変えていないけど、怒っているような雰囲気が漂ってきているし。


「私も、いや私達は数日間の休暇を取るようになっているんだ。それで紆余曲折あって、少し前に顔を合わせたシンくんと偶然にも出会い、体を動かしたいと思っていたからパーティを組む流れになったんだ」

「……そうでしたか。それでは、臨時のパーティという事でよろしいのですね」

「そうだね。わかってくれたようで良かったよ」

「それではこちらへ記入をお願いします。【暁天ぎょうてんの導き】所属、阿須野あすの夏陽かや様」

「え……」


 今、美和はなんて言ったんだ……?

 夏陽さんが、あの【暁天の導き】に所属しているって……? あの、義道ぎどう正成まさなりさんがリーダーのチームの……?


「――これでおしまいっと」

「じゃあ次、シンくんがパーティリーダーのところに名前を記入して」

「へ……?」

「どうかしたの? あー、まあまあ気にしないで。どっちにしても一緒に活動するんだから、さ」

「は、はい」


 俺は今、夢を見ているのか?


 この瞬間に観ている光景は、本物なのか? え?


 脳が情報整理できていない中、なんとか手に馴染んでいる自分の名前を記入し終える。


「はぁ……その人は、私の幼馴染なんです。絶対に酷い事をしないでください」

「ははぁーん、なーるほどねぇ。大丈夫大丈夫。やましい事は絶対にしない・か・ら・さ」

「もしもの事があったら、絶対に許しませんから」

「おー怖い怖い。シンくん、愛されてるねぇ」

「なっ! そそそそんな事は!」

「そ、そうですよ。そんなわけじゃないですか。美和は俺の幼馴染なんで」

「あーもう! さっさと消えろー!」


 いつもは冷静沈着を貫き通している美和が、ここまで取り乱しているなんて珍しい。

 ――なんて、なんで俺が冷静に分析しているんだ。

 俺が今置かれている状況の方がよっぽど慌てるべきだろ。


 成り行き任せにパーティを一緒に組んだけど……夏陽さんは【暁天の導き】所属だって……?

 目標に掲げている人だけを考えすぎて、所属している人達の名前は憶えていなかった。


 なんてこった……これ、本当に大丈夫な流れなの……?

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