第24話『俺の能力とスキルがどう干渉するのか』

 とは言ったものの、居ても立っても居られない俺はダンジョンに来てしまった。


 ついさっき自分で今日はなにもしないって決めたばかりなのにな。

 だけど、みんながみんなちゃんとやることをやっているのに、俺だけ待っているだけなんてできない。

 時間だけは誰よりもあるんだから、もう少しだけ動けるように練習ぐらいはしていても悪くはないだろう。

 別に無茶をするわけじゃないんだから。


「まずは戦い方」


 前は弱ったモンスター相手に、真っ直ぐ走って斬りかかるだけだった。

 だが今では、遭遇したモンスターへ自分から攻撃を仕掛けることができる。

 胸を張って自慢できるものではないが。


 それでも、俺にとっては大きな一歩なんだ。

 剣を持つ手の震えや、惨めにも震えていた足も今はしない。


「まずは素振り」


 戦いに慣れるのは大事だけど、剣に慣れるのも重要なはず。

 ありがたいことに、重量的に合わないわけではないから運がいい。


「力の込め方、流れを崩さない振り方、体と頭を柔軟に使って剣の軌道を考えるんだ」


 たぶん他の人からすれば、間違いなく滑稽な光景が広がっていることだろう。

 ぎこちない動きをしていることぐらい予想がつく。

 でもこれが今の俺にできる精一杯なんだ。


「ふんっ。はっ――はぁっ」


 声は出るものの、気づけば呼吸が止まっている。

 まだまだ力んでいる証拠。

 わかってはいるものの、剣を振っている時に意識して呼吸をしているようじゃまだまだだ。


 動きを体に沁み込ませ、無意識でもいろいろとできるようにならなくちゃいけない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 少しは慣れてきている、と最初は思っていたけど、これじゃあ全然ダメだ。

 体中が重く、地面に両膝を突いて休憩をしなくちゃ呼吸すらまともに整えられない。


「こんなんだから、パーティを追放されるんだよな……」


 今の今まで実感がなかったわけじゃない。

 だが、こうして1人になって、自分の実力を再確認すると嫌でもわかってくる。


 こうして自分と向き合わず、どこか他人事で、少しだけ自分を語ってみせて正当化させていた。

 だからこそ、パーティを追放される、という普通は驚かれるようなことが自分に起きても思いつめることはなかった。

 そりゃあ、戦いからだけじゃなく、自分からも逃げ続け、目標があるとは言いつつなにも成すことができなかったんだから、目も背けたくなるよな。


 全部が自分のことなのに、本当に情けない。


「……本当に情けない」


 今だって、俺はなにを成した。

 春菜と真紀がパーティを組んでくれて、一緒に戦ってくれているだけで、浮かれていたじゃないか。


 自分のためにみんなが動いてくれて、ようやく現実が目の前に急接近してきて、焦ってこうやって。

 惨めに足掻いて、カッコ悪く剣を振って、地面に両膝を突いて、今の自分にはお似合いじゃないか。


 もっと、強くなりたい。

 もっと、強くならなくちゃいけない。

 もっと、自分の力でなにかを成さなければならない。

 もっと、みんなのために役立つ存在にならなきゃいけない。


 休んでいられる時間はない、立つんだ。

 剣が振れないなら、今の俺にはスキルがあるだろ。


「【聖域】展開」


 スキルを取得してまだ日は浅いけど、この光景には少しだけ慣れた。

 結界となっている面積が増えたわけじゃない。

 外に歩み出て拳を打ち付けると、パリンッと割れたような音と共に光の破片となって散り散りに消えていく。


 新しい情報としては、結界の中に他の人が居ても大丈夫だということがわかった。

 それに加えて、中から攻撃することができるし、何度も出入りすることができる。

 小走りで出入りできるけど、体当たりとかだと壊れるのかな。


 走って試したいところだけど、まだまだ足の回復は先のようだ。


「そういえば壊してばかりで、持続時間ってどうなってるんだろう」


 モンスターはここで出現はしないし、誰かが通りかかっているわけでもない。

 それに休憩するからちょうどいいな。


「よいしょ」


 タイマーを計る手段はないけど、バンドを叩けば時間が出てくる。

 時刻は11時25分。

 目安として、最長でも10分は待とう。


 そして、人が来たら……あれ、そういえばこの結界は自分の意思で消滅させることはできるんだろうか。

 そもそも展開って言うのも、流れで言ってたからな……逆の言葉で考えると、『縮小』や『収束』だったような気がするけど、消すなら『消滅』か『削除』か『解除』ぐらいがちょうどいい気がする。

 んー、解除でいいか。

 いろいろと試せるんだし。


「再使用するためには空き時間が必要。だから結界を重ねることはできない」


 結界の方は煮詰まってきたな。

 なら、読みである【ワークショップ】という意味を考えてみよう。


「でも美和と話をしたぐらいのことしか思いつかないよなぁ。作業場っていうぐらいなんだし、なにかできないとおかしいよな。あ……もしかして」


 目に見えるところを探しても見つからないのなら、それ以外のところを探してみればいい。

 咄嗟の思いつきだけど、物は試し。

 体を返して地面と向かい合い、素手で地面を掘ってみる。


 ダンジョンの地面は、土のようなものがびっしりと敷き詰められている。

 土のようなもの、というのは、俺は研究者でもないし知識をもっていたいから断定できないだけ。

 と思って、数ヵ所ほど土を掘り返してみても希望に合うものは出てこない。


「さすがに痛い」


 スコップさえあれば楽なのに、と思っていても仕方がない。


「はぁ……作業場ってなんなんだよ。俺は底辺でも鍛冶師の端くれなんだぞ。火床ほどとかふいごがないってのに、どうしろってんだ」


 実は、小槌は肌身外さず持ってたりするんだけど。


 と、ダンジョン内で1度も開けたことのない腰に携えるポーチに手を当てる。


「はぁ……なら、いっそのこと空中から武器でも取り出せたらいいのにな。まあ、そんなことが起きるはずはないけど」


 もしもそんなことがあったら、そもそも鍛冶師なんて必要がないだろ。

 自分で手に入れたスキルが、まさかの自分の仕事を奪うってことがあっていいわけないだろ。

 そんなの、鍛冶師引退だっての。


「まあ、デビューすらしてないもんだ……け……ど……」


 いったい、なにが起きているんだ。


 ただの戯言だったが実現してしまった。

 空中に光が灯され、徐々に横へ広がって剣の形になっていく。

 すぐに誰もが扱いやすそうな、一般的な剣になったが、輝きを発したまま。


「もしかしてこれ、握れたり……?」


 恐る恐る手に取ってみると、ギリギリ目を閉じずに済む光量の剣が手に収まった。


「わお」


 試しに振ってみると、光の剣は形を保ったまま軌道を描く。

 面白いことに全く重量を感じないことから、疲労困憊の腕でも振り回すことができる。


「もしかしてこれって、ヤバいのでは?」


 とか言ってみるものの、そこまで理解できていない。

 1つだけ言えるのは、1つのスキルで2つの能力が発動しているのは聞いたことがないということぐらいだ。

 そもそも知識が足りてないから、実際のところはわからない。


「感動している場合じゃない。試してみないと」


 ならば、この剣で結界を攻撃したらどうなるのか。

 そもそも剣が結界から出たら消えてしまわないか。


「出ることは大丈夫だとして。こっちは――」


 なけなしの力を込めて剣を結界にぶつける。

 結果、結界は砕け、剣も同じく砕けた。


「えぇ……薄々はそうかなって思ったけど、どっちも1回きりかよ……」


 期待に胸を膨らませていたが、儚くも散っていった。


 もう少しだけ実験できる幅が広がると思っていたのに、これじゃあほとんどかわらないじゃないか。


「はぁ……再使用までの時間もあるし、明日から春菜と真紀と合流だからそろそろ終わりか。ご飯を食べて、帰るとするか」


 頭も体もいつもより使ったせいで、疲労感が凄い。

 でも少しは収穫があったから、よしということで。


 あぁ……今日は、うどんと親子丼のセットにしよ。

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