俺だけ開ける聖域《ワークショップ》!~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信をしてしまい、ダンジョンの英雄としてバズっただけではなく、追放されたパーティにざまあして人生大逆転!~
第4話『俺だけの力で助けることができるなんて』
第4話『俺だけの力で助けることができるなんて』
帰路の途中、考える。
不可能に近いとは誰に言われなくたってわかっている。
しかし、もし――もしも誰かを助ける場面……いや、助けなければならない場面に遭遇したとしよう。
その時に俺は何をしたらいいんだろうか、と。
「んー」
妄想するだけタダだしな。
ダンジョンの中だから難しい話になるだけで、地上だったらどうだろうか。
例えば……そう。
積み重なっている荷物が倒れてきてしまった時、そこに事情を知らない人が立っていた、もしくは通りかかったとする。
地上では武器を所有できない探索者は、自分の身だけで解決しなければならない。
だとすれば、かっこよく駆け出して勢いそのままに救出する。
ありきたりな展開ではあるが、基本的にはそれ以外が思いつかない。
これぐらいなら俺にだってできるぞ。
だって年齢は16。
まだまだピチピチの現役なんだからな。
「……」
おいおいマジかよ。
まさに想定していたような、スーパー前でダンボールが5段重なった3列が視界に入る。
昼間だし、お昼ちょっと過ぎだから人通りが少なくて仕入れ時なのかもしれないけど、あれはちょっと危ないだろ。
もしも誰かが通りかかったとしたら、俺が妄想していた展開になりかねないぞ。
「あ……」
なんでそんな都合よく正面からお姉さんが歩いてくるんだよ。
そんでもって全然ダンボールのことを気にしていないし。
幸いにも、ながら歩きをしている様子はないけど……メンタル強過ぎでしょ。
「やば――っ」
ダンボールが揺れ始めたのを確認し、駆け出す。
これがもし気のせいだったり、倒れなければそれでいい。
勢いそのままに走り抜ければいいしな。
変質者だと思われるが、別にそれぐらい大丈夫だろ――たぶん。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「お姉さん危な――え」
俺の声が届いたからか、走って向かってくる俺が気持ち悪かったのか。
どちらかわらかないが、お姉さんは綺麗に崩れてくるダンボールから避けるように大きく一歩退いた。
そんでもって、俺は見事に、無様に、目も当てられないぐらい情けなくスッ転んだ。
「いってー」
あれ、そういえば俺は崩れてくるダンボールの前に……。
「うがっ!」
結果、俺は埋まった。
「だ、大丈夫かいキミ!?」
耳に届いてきたのはたぶん、ダンボールの隣で作業をしていたであろう男性の声。
その声に応えたい。
応えたいんだけど、この重いダンボールのせいで体が……あれ? 想像していたより重くない……?
「あっ、キミ大丈夫かい!?」
「あはは……大丈夫みたいです」
「よかったぁ」
疑問を解決するべく振り返って中身が溢れていないか確認してみる。
しかし封は閉じたまま。
ならば、と男性が作業していた場所へ視線を向けてみると……トイレットペーパー。
体の所々に少しずつ痛みを感じるが、これはたぶんダンボールの角が当たったからだろう。
そんなことより、転んだ時の地面に擦れた部分の方が何倍も痛く、熱い。
「だ、大丈夫ですか……?」
その声に振り向くと、助けようとした女性が手提げ鞄の紐を握り締めながら俺を覗き込んでいる。
「――はい、大丈夫です」
うわあ……『穴があったら入りたい』とは、まさにこのことなんだな……。
俺は立ち上がり、ダンボールを抱える。
恥ずかしさのあまり顔が赤くなっているであろう事実を隠すように。
「こ、これの片付けを手伝います」
「いいですって、悪いのはこちらなのですから」
「いえいえ、手伝わせてください」
本当にお願いします。
今、あちらの女性と顔を合わせて話をしようものなら、俺はもう生きていけません。
「なら……向きを直してくださるだけで大丈夫ですので」
「わかりました」
そして。
「あの、ごめんなさい。たぶん私を助けようとしてくださったんですよね。このお礼はまたどこかでお返しします。先を急いでいまして――ありがとうございました」
「は、はいっ」
チラッとだけ女性の仕草が視界に入り、深々と頭を下げた後に小走りで去って行った。
……いいんだ、これでいいんだ。
いやー、ダンボールがあってくれて本当によかったー。
恥ずかしさを誤魔化せる物があって本当によかったぁ。
……ああ、泣きそう。
再び、帰路に就く。
「まあ、これはこれでよかったか」
作業終了後、スタッフの男性から謝罪の意味を込めて両手いっぱいの袋に詰められた食料をいただいた。
値段的に言ったら数千……? 万ぐらいはあるのかな。
ダンボールが崩れたのは偶然で、まあ確かにあちら側の不手際だとは思うが結果的に怪我をしたのは俺が転倒したからだ。
こればかりはなんとも言えないな。
あんなに何度も頭を下げられたら断れないし、後は帰るだけだから――まあいいか。
「はぁ……」
妄想の俺は、もっとかっこよく女性を助けていた。
だというのに、なんだよさっきの。
あまりにもダサすぎる。
「ん~、くぅーっ」
羞恥心に全身がむず痒い。
全力で掻きまくりたい。
だがしかし、両手の袋がそれをさせてくれない。
行動的にはかっこよかったけど、今のを配信してたりしたら笑い者になっていただけだった。
こんなんで女性を救ってバズるなんて、絶対に無理だよ。
処置してもらった傷口がジンジンと痛む度に、情けなく転んだあの瞬間がフラッシュバックしてきてしまう。
まあ……等身大で頑張るしかないってわけだな。
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