クリソプレーズの物語
あのとき告白する勇気が湧かなかったのは自信がなかったからだ。今、気持ちを伝えたとしても、あなたは振り向いてくれないという確信があった。
高校を卒業してしまったあなたを追いかけて、私はあなたと同じ大学に入学した。同じ学部ではあるけれど、同じ学年ではないから授業で見かけることはない。食堂ですれ違えればなんて期待したけど、会うことはかなわず。
あなたがサークル活動をしていたら一緒に過ごせたかもしれないけれど、授業とバイトで忙しいからどこにも所属していないのだと聞いて少し悲しかった。バイトは家庭教師なのだそうだ。教えるのが得意なあなたにピッタリだと思えたと同時に、一緒にアルバイトができないとわかって苦笑してしまった。
いつもあなたには届かない。
***
運が向いてきたと思えたのはあなたが院生になったと聞いてからだ。私の興味関心があなたの所属する研究室のテーマと一致しているのは、高校時代にあなたが話をしてくれたのを機に興味を持ったからだ。
院生と学部生は研究室では一緒に学ぶ。あなたと組むことができた私は密かに勝利を祝った。
でも、ゴールはここではないのだ。
足を引っ張らないように努力する。浮かれている場合ではない。研究の成果が出せれば、論文に名前が並ぶ。自分の恋心の成就よりもずっとそっちのほうが大事だった。
私はあなたのことも好きだけれど、この研究テーマも自分の人生をかけてもいいと思えるくらい面白く感じていたのだ。
***
親の反対を押し切って、私も院に進んだ。あなたはそんな私を見て笑っている。
「君には才能があると思っていたけど、才能を開花させるのは簡単じゃあないはずなんだがなあ」
「あなたがいなかったら私はここにいないんで責任とってくださいよ」
おどけて返す私に、あなたは苦笑を浮かべつつ手を差し伸べた。
《終わり》
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クリソプレーズの宝石言葉
【勇気】【自信】【勝利】【才能開花】
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