トパーズ(ゴールド)の物語
まわりが恋愛だの結婚だの離婚だのとうるさい。人生に異性のパートナーが必ずしも要るというわけではないはずだ。
十代の頃から同性の友人たちの恋愛体質に辟易していた私は、早々から異性に期待しない生活を心がけていた。
『自己実現を目指しましょう』
誰かを必要として生きるのではなく、自分の足でしっかり立てるようになりたい。誰かの飾りでもなければ、誰かを飾りにしたいわけでもない。私は私らしく、だ。
幼い頃から存在感が薄くて目立たない人間ではあったが、自分らしくあることに対しては人一倍情熱を注いできたつもりである。
三十代目前で職場では多数の部下を持つようになった。学生時代の友人たちは子育てなり妊活なりで自分の遺伝子を残すことに勤しんでいるようだが、私は私で部下たちを育てている。それでいいはずだ。
それでいいはず、なのだ。なのに。
「――先輩だって、頼っていいんだと思いますけどね」
うちの部署を希望して入ってきた新入社員が、決起会の場で生意気なことを言い出す。
「俺、仕事はまだまだでしょうけど、それ以外なら頼られても応えられると思うんっすよ」
「面白いこと、言うじゃない」
「冗談で言ってるわけじゃないですよ。なにか困ったら、気軽に連絡くださいよ」
ふにゃりと笑って、彼は私に個人携帯の連絡先を見せて挑発してくる。
「私の連絡先、誰かに売ったら許さないよ」
「しませんよ」
そう告げて、私たちは連絡先を交換する。
私の矜持が揺らぐほどの事態はここがはじまりだった。
《終わり》
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トパーズ(ゴールド)の宝石言葉
【自己実現】【存在感】【情熱】【希望】
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