秋を探して

 濡れた苔を踏みしめて家路を歩く。収穫した木の実を背負い、平茸の傘を差して。

 背中の籠で揺れ転がる胡桃と栗。今日の成果は上々だ。

 ……浮かれ過ぎていたのかもしれない。注意力が散漫になっていた。

「きゃあっ!!」

 突如。

 草の根を分けてずぼっと入ってきたモノに、わたしは悲鳴を上げた。

 黒くつやつやとした濡れた鼻。ひくひくと、すんすんと、匂いを嗅いでいる。

 ……犬だ。

「あ……、ああ……」

 自分の何倍もある巨体に、恐怖で足が竦む。逃げたいのに、この場を離れたいのに、まるで地面に足が捕らわれているように動けない。

 怖い。こわい。コワイ。

 次の瞬間、犬がくわっと口を開いた。

 涎が顔に降りかかる。白い牙がぬらりと光る。

 ——食べられる。

「こーら。草むらには入んなっつってんだろ? お前の毛長ぇから、草の実とか絡まったら取るの大変なんだって」

 男の人の声が聞こえるやいなや、わたしの視界から犬が消えた。どうやら、彼に抱きかかえられたらしい。

 なんだかわからないけど助かった。今のうちに逃げなければ。

 絶対に見つかってはいけない。とくに人間には。そう、亡くなった母からきつく言われている。

 けど、足が——

「耳と尻尾の毛、思い切ってカットするか? けど、お前パピヨンだもんな。……ってこら暴れんなって! なにそんな興奮してんだよ!」

 ——動かない。

「おいっ!」

 草から飛び散った露が、ぱんっと弾けた。

 水珠越しに映る、黒い瞳と黒い髪。それから、黒い髭。

「!」

 彼の後ろに、高くて低い鈍色の空が——

「こ、びと……?」


 ——見えた。

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