第2話 恋が始まる予感
昼休み。
僕は昼食を摂った後、一人図書室に訪れていた。
図書室という空間は、僕にとって癒しの場所だ。
読書が趣味の僕にとって、学校にいながらも趣味を存分に堪能できるこの場所は、なくてはならない場所だった。
(まあ、読書が趣味と言っても、僕はラノベしか読まないけど……)
図書室のラノベコーナーに足を向け、今日はどんな本を借りようかと吟味する。お金を少しでも節約したい僕にとって、無料でラノベが借りられるのは非常にありがたかった。
しかも僕が通う
僕が自宅から通える範囲の高校で、最も多くラノベを取り扱っている図書室が、この清明高校だったのだ。
我ながら不純な動機で高校を選んだものだなとは思うけど、僕にとってはそれこそが重要だったのだから、仕方ない。
しばらくの間、僕はどのラノベを借りようか悩んで唸っていた。
そんな中、一冊だけ気になるタイトルを見つけ、その本を棚から取り出そうとする。
その時、僕が取り出そうとした本を、同時に別の誰かも取り出そうとしたようで、その人と手がぶつかってしまう。
「あ、すみません」
「――こちらこそ……って、
「
僕と手がぶつかった人物は、クラスメイトの重叶さんだった。
「ごめん、本を選ぶのに夢中で、重叶さんに気づかなかった」
「私もだよ! ふふ、奇遇だね?」
そう言ってニコッと微笑む彼女を見て、僕の胸はわずかに高鳴った。
(やっぱり可愛いな、重叶さん……)
彼女の顔を直視できなくて、僕は目を逸らした。そのまま彼女の手元の方に目をやると、そこには一冊のラノベが握られていた。
「重叶さんって、ラノベとか読むんだ……」
意外な共通点を見つけてしまって、僕は勝手に彼女に対して親近感が湧いてしまった。
「うん。私、本を読むのってあんまり得意じゃないんだけど、ラノベは面白くて沢山読んじゃうんだ」
「え、それ……僕も!」
思わず前のめりになって同意する。
(しまった……。なんだかオタクっぽくて恥ずかしい……)
前のめりになってしまった身体を、重叶さんにバレないように少しずつ元の姿勢に戻していく。
「あは。もしかして、相生くんも本はラノベしか読まない人?」
「じ、実はそうなんだ……」
「ふふ、一緒だね。相生くんとの意外な共通点が見つかって、なんだか嬉しいな」
――ぼふっ!
僕の顔が熱さで沸騰する音がした。
「あ、そうだ。この本、見たかったんだよね? はい、どうぞ」
重叶さんは先ほど僕が本棚から取ろうとしていた本を、僕に差し出してくれる。
「あ、ありがとう。でも、重叶さんも見たかったんじゃ?」
「私は大丈夫。もう借りる本は決めていたから。その本は、タイトルが気になったからあらすじを読んでみようと思っただけ」
「そっか。僕もこのタイトルが気になって、あらすじを読んでみようと思ってたんだ」
「そんな考えまで一緒だったんだ! 私たち、息ピッタリだね?」
「う、うん。そうだね……」
こんなに可愛い子に息ピッタリだなんて言われると、無性にドキドキしてしまう。
まさか、ここから運命の恋が始まっちゃったり……?
流石にないか。相手は重叶さんだぞ。こんな美少女が、僕に興味を持ってくれるわけがない。
「えへ、やっぱり私、相生くんともっと仲良くなりたいな。ラノベの話とか、もっと沢山したい。私、相生くんにすごく興味ある!」
はい!? ぼ、僕に興味がある!?
え、嘘だろ……。そんなバカな……。ただ同じクラスで、たまたま隣の席で、偶然ラノベを読むっていう趣味が一致しただけのこの僕に!? あの重叶さんが興味を持ってくれている!?
ズキュン。
や、やばい。途端に重叶さんのことを意識してしまって、心臓の鼓動が鳴りやまない。
(そんなこと言われたら好きになっちゃうって‼ なんなの!? わざとなの!?)
僕の動揺をよそに、重叶さんはニコニコと楽しげに笑っている。
「そうだ! 私、良いこと思いついちゃった!」
突然彼女が何か閃いたように人差し指をぴんと立てたので、僕は首を傾げる。
「いいこと?」
「そう、いいこと! 相生くんさえ良ければ、放課後、またこの図書室に来てくれないかな?」
話がよく見えてこないが、一応放課後は特に予定もないので、空いている。
「一応来れるけど、どうかしたの?」
「放課後、この図書室で、私とラノベについて語り合わない? 私、相生くんともっとラノベの話して、仲良くなりたいの!」
え、何この子。すごい積極的なんですけど。もしかして僕のこと好きなの?
重叶さんの行動をどこまでも深読みしてしまって、僕の頭はパンク寸前だった。
そんな時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまう。
「あ、もう教室戻らなきゃ! 私はささっとこの本借りてくるけど、相生くんは?」
「ぼ、僕も、とりあえずこの本借りようかな」
僕は重叶さんから受け取った本を見ながら、そう答えた。
「じゃあ、その本読み終えたら、感想聞かせて? 私も少し気になってるから」
「わかった。読み終えたら言うよ」
「ありがと」
最後にまたニコッと笑って、重叶さんは僕の横を通り過ぎようとする。その瞬間、
「じゃあ放課後、約束だからね? 私ずっと待ってるから、すっぽかしたりしないでよ?」
と、僕の耳元で優しく囁いた後、図書室の貸出カウンターに向かって走って行った。
僕はしばらくの間、その場で呆然としていた。
ドキ、ドキ、ドキ。
心臓の音がうるさい。
(僕、重叶さんのこと、好きになっちゃったかも……)
重叶さんに対する第一印象は、「隣の席の美少女」程度の認識だった。しかし、いつからか授業中に重叶さんの妙な視線を感じるようになって、彼女の印象は「僕をじろじろ見てくる変な人」に変わった。
結局、彼女がどうして僕にあんな視線を向けてくるのかは謎なままだけど……。
どうやら僕は、今のこの数分間のやり取りだけで、重叶さんのことをかなり意識してしまったらしい。
彼女に対するこの想いが「恋」かどうかはまだ断定出来ないけど、少なくとも「意識している女子」であることは間違いないらしい。
鳴りやまない心臓の音をうるさく感じながら、僕は貸出カウンターへ急いだ。
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