人間を喰う
夜に書くアルファベット
俺の病気は「人の心臓を喰う」
分が自分じゃなくなるには、早かった。
かつての自分はとうにいなくなり、外見だけになった。
僕が僕じゃなくなる瞬間はいつだったのだろうか。
きっと、君を食べてからなのだろうな。
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人の心臓を喰らう人間。
現代には、そんな恐ろしいものが流行っていた。
その病気の名前は、「心喰病」
これは生まれ持った種族とかでもなくて、みんながかかってしまう可能性がある。
どのようにしてかかるのかや、治療法や治療薬などは存在しておらず、かかったら死ぬとされている病気だ。
しかし、感染はしないことだけはわかっている。
その病気の初期症状は、『ある日突然肌の一部が真っ白になり、すれ違う全ての人に嫌悪感や苛立ちを覚える』というものだった。
おかしいなと思い病院にかかると、医者が焦りだし、大きな都会の病院へ今すぐいくように促される。
指定の大きな病院へ行き受付を済ますと、その病院で一番偉いであろう医者が大慌てで駆けつけてくる。
何が起こっているかわからないまま、いろいろな検査をし、質素な病室へ寝かされる。
そして、こう告げられるのだ。「あなたは心喰病です」と。
ここまで詳細に書けば、もうわかるだろう。
そう、これは僕の実話だ。
この小説は「心喰病(しんくうびょう)」である僕の生き様を書き綴る予定だ。
どのような展開の物語になるのだろうか。
作家の俺も結末を知らない。
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僕には恋人がいた。
とても可愛らしい笑顔が素敵な人だ。
現代のナイチンゲールのような聖母マリアのような、とにかく聖人なのだ。
困っている人は見過ごせないし、いつも自分は二の次。
俺はそこまでお人よしじゃないし聖人のかけらもないのに、彼女は僕を選んで寄り添うと決めてくれた。
俺にできる彼女への精一杯のアピールは、彼女を幸せにし続けることだと思って、俺は彼女にだけはめっぽう優しかった。
そんな聖人にも、神様は厳しかった。
ある日彼女は心臓の病気で三年も生きたら良い方だと医者から言われた。
充実していた彼女の生活へ落ちた雷、まさに青天の霹靂だった。
彼女の余命については、俺も彼女もたくさん涙を流して3年を精一杯生きようと決めた。
彼女はもちろん俺の心配をした。しかし、頑なに「最後まで一緒に寄り添う」と言った俺に、折れたのは彼女の方だった。
彼女が折れたのは後にも先にもこれだけだった。
俺が「心喰病」と診断されたのは彼女と俺の親に報告して、会社も辞めて、優先順位が高い順に彼女のやりたいことを叶えていこうと決めた矢先のことだった。
神様というものは無慈悲で残酷で…。誰に怒りをぶつけて良いかわからなかった俺は、いるかもわからない神様を憎み、やり場のない怒りを持ちながら歯を食いしばることしかできなかった。
余命付きの病気と宣告された彼女を支える俺は、少なくとも悪いことはしてないはずなのにな。
よりにもよって忌み嫌われる病気を患うとは。
というのも、この「心喰病」に対する世間からの目はかなり厳しいものだった。
どのくらいかというと、とても仕事のできて家族を大切にしていて、周りからの信頼も厚い会社の社長が、この病気にかかっただけで全てを失うレベルだ。
もっとも、自分の心臓食べられる危険があるのなら離れるという思考はまともではある。俺でもそうする。
あ〜俺の人生もあとちょっとで終わりなのか。
自分の気持ちを文章にしてみると達観したような気分になる。
よし今日は流行ってるあのアニメでもみるか。
俺は陽が差す窓の外を見た。
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