虹と戯れる砂の底魚

藤泉都理

第一章

第一話 髪の毛






 人間は髪が命。

 この言葉を体現するように、ここ『砂の国』の人間は髪の毛で全てを判断されると言っても過言ではない。

 入学も、入社も、交際や結婚相手も、合格の判断基準として見られるのが、髪の毛であった。

 髪の毛の手入れはどれくらいの頻度でするのか、髪の毛の手入れにどのくらい時間をかけるのか、どのような手入れを行うのか、どのような店で整えてもらうのか、髪の毛で主張したい事は何か。

 これらの質問に満足の行く答えを発言し、また、その発言通りの髪の毛の見た目と質を見せる事ができれば、合格なのだ。

 学歴や職歴、特技などは二の次、三の次。

 髪の毛第一主義なのだ。


 では、髪の毛が生まれつき生えない人間は差別されて、蔑まれるのか。

 いいや。

 同情されるのだ。

 可哀想だ。可哀想だ。と。






「ぜんっぜん、可哀想じゃねえし!」


 生まれつき髪の毛が生えない女性、土羽梨とばりは、自国である『砂の国』に侵入してくる隣国『緑の国』の木の根を自身の身長ほどある斧でぶっ叩いて退かせたのち、頭に巻いていた砂色の麻布を豪快に取り外して、鼻息を荒くさせた。











(2023.8.1)



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