第6話 知っている彼と違う

「へぇ、ステップはなかなか様になってるな」

 また別の日、私はカイルに手を取られダンスの練習をしていた。

「そう? まぁ、踊ることは昔から嫌いじゃないしね」

「あぁ、いい感じだ。動く方向へぴったりついてきているし、もたつきもない。足元や芯がしっかり安定しているから、羽のように軽く感じる」

「そ、そう?」

 そこまで褒められると、むずがゆくなってくる。

「カイルのリードがいいからじゃない?」

「お? 少し褒める力が付いたか?」

「本当のこと言っただけよ」

 音楽に合わせ、足を進め、かかとを引き、そしてターンをする。

(あ……)

 不意に繋ぎ合っている手を意識してしまった。

(カイルの手、おっきいな)

 指が私よりも太くてごつい。体温も高い気がする。

(男の人の手、って感じ)

 意識した瞬間、ほんのわずか足元がぐらついた。

 すかさずカイルの手が私の腰を引き寄せる。私はカイルの胸の中に身を預ける形となってしまった。

「ご、ごめん」

「どうした? つまづいたのか」

「あぁ、うん、そんな感じ」

 飛び込んだ先の胸は、思いの外広くて大きかった。

(子どもの頃から遊んでいた、あの少年のイメージのままだったけど)

 ずしっと逞しいその胸に、私は困惑する。

(私の知ってるカイルじゃない感じ)

「えっと……」

 私は顔を上げる。すぐ目の前にある、青い瞳。一瞬、カイルが驚いたような表情を見せた。

「ったく」

 不意にカイルは私を放り出すように、体を離す。

「きゃ」

「相手が俺だったからよかったけど、陛下相手に今のはなしだな」

「と、当然よ」

 私は彼に背を向ける。

「あんたの足は踏みまくっても、陛下の前では完璧なステップを踏んでみせるわ」

「そうしろ」

 言ったかと思うと、カイルは私の腰の後ろをペンッと軽く叩いた。

「何すんのよ!」

「体幹は見事だと思うぞ。俺と子どものころから木剣で遊んでいた甲斐があったな」

 言われてみれば。あれで足腰がかなり鍛えられた気がする。

「それに剣の腕だってその辺のご婦人とは比較にならんだろ。それを生かして陛下を守れるのはお前の強みだ」

「そうなの?」

「あぁ。ひょっとすると、護衛もできる恋人として重宝されるかもな」

 う~ん、そちらばかり頼りにされるのは何だかなぁ。

 私は恋人になりたいのだ。陛下と、甘くロマンティックな恋がしたいのだ。


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