11.村を一望

 家の中を一通り見て周り大体は理解できたし、新たな同居人も現れてなんだがにぎやかとなった。次は外へ出てみようと言うことになり、玄関を出てから左手へ進み広い庭までやってきた。するとドーンが想定通りのことを言い始める。


「ねえ二人とも? アタシはそろそろ帰ってしまうけどもう平気よね?

 こんなに従者もいるんだし後はうまくやってちょうだい。

 もしどうしても何か困ったことがあればこれでメッセージくれればいいから」


 ドーンはそう言いながら家の写真を見せてくれた時のようにスマホを取り出した。しかし僕たちのスマホは向こうの世界へ置き去りだか消滅だかしてしまったはず。だがその疑問はすぐに解決した。


「二人とも指輪に向かって『スマメ』って言ってみて。

 最初はちょっと照れくさいかもしれないけどすぐに慣れるわ」


「「スマメ」」


 僕と真琴が同時につぶやくと、手の中にスマホが、いや、なんだか少し透き通ってておかしな感じの画面が表示された。スマホのようにアイコンが並んでいるのではなくWebブラウザのように画面上部にタブがある。最初の画面はステータス、隣がマネー、三番目がメッセージで最後にアイテムボックスと書いてある。


 ごちゃごちゃと数値が書いてあるステータス画面を指でフリックすると残高ゼロのマネー画面、次がメッセージ画面で、最初から真琴とドーンの名が表示されている。ちなみにアイテムボックスは空っぽだった。


「このメッセージって世界を超えても届くんですか?

 なんかホントなんでも有りって感じですよね……」


「だってアタシはこの世界で唯一の神だし、地球へ行っても神であることに変わりはないのよ?

 それくらいは出来て当たり前ってこと。

 まああなた達には神がついてると思えば安心できるでしょ?」


「なんか寂しいけどまた会えるよね!

 マコこっちで頑張るよ! ドーンさんさよならー」


 こうしてドーンは一瞬でその場から消えてしまい、これで僕たちが地球から来たことを証明する唯一の接点が失われた。まあ誰かに証明する必要もないから気にすることでは無い。それよりも早くこちらの生活になじめるようにしなければならないのだ!


 ひとまず敷地内は結界に護られてて安全なんだし、いざとなってもハンチャやチャーシといった戦闘のプロ? もいる。そう考えると何の不安もなくなって来るのが不思議だ。いや、決して虎の威を借るなんとかってつもりはない。


「ご主人様? なにか不安でも?

 いつもお側にはナルがついてますから安心するのだわ!」


「はいにゃ、マコ様にはメンマがピッタリついていくにゃ。

 でも耳をもぞもぞするのはほどほどに、なのにゃー」


「ナルもメンマもありがとう。

 不安はそんなにないつもりだけど、やっぱ全く知らないところだから緊張するね。

 どこまでがこの家の敷地かわからないけど、目安は柵の中ってことでいいのかな?」


「ええ、この柵に沿って結界が築かれているのだわ。

 結界を超えられるのは、主人様たちに許可を受けた者だけ。

 地下と空にも侵入制限が施されているから安心するのだわ」


 説明を受けて頷きながら周囲を見回すと、大体高さ一メートルくらいの柵が延々と続いている。屋敷の玄関から続いた石畳が途切れたところには門扉があって、こちらもそれほど高くない鉄の門がついている。パッと見では簡単に飛び越えられそうだが、きっと周囲からの侵入を守る結界のせいで一切立ち入ることが出来ないのだろう。


 その正門? までは玄関からおよそ百メートルくらいはありそうだ。そこから柵は左右へと続いており、屋敷の後ろまでを囲うように続いているようだ。建物の背後には森があるのだが、そこも敷地内なのかそのうち確認することにしよう。


「真琴? しばらくは絶対に柵の外へ出ないようにな。

 周囲の状況がわからないしここから他の家も見えないだろ?

 どんな人が住んでるかわからないからな」


「お兄ちゃんは慎重だなー

 お爺ちゃんが住んでた村なんだからきっといい人ばかりだよ。

 メンマたちだってついているし、平気平気ー」


「それでもしばらくは、頼むよ。

 自分でも意外なんだけど、僕って知らないところとかすごく警戒する性質(たち)だったみたい。

 庭も広いし花壇もあるじゃないか。

 ルースーと一緒に花でも植えてみたら?」


「それいいかもー!

 豪華なお屋敷らしく薔薇がいっぱいになるといいな。

 ねえルースー? できるかな?」


「もちろんです。

 マコ様のお望みが叶いますよう、ルースーがお手伝いするのです。

 それにはまず薔薇の苗木が必要になるのです」


「あ、そっか、そう言うのはやっぱ必要だよね、でもお金はないんだった……

 ドーンさんがそのうち送ってくれるはずだけど」


「じゃあお庭はその後だね。

 あーあー、楽しみだなー、その時はきっとお出かけだよね。

 おっかいものーおっかいものー」


 魔人がいくら飲食不要だと言ってもやはりここから一歩も出ないで生活するのは無理があるし、そんな風に閉じ込めておくなんて、僕が真琴にしてやりたかったことじゃない。唯一の肉親なのにこんな弱気でどうするんだ!


 気を引き締め直した僕は虚勢を張るかのように背筋を伸ばし、正門へ向かって歩き出した。後ろからは真琴とメンマ、それにナルやルースーもついてくる。戦闘特化で護衛だと思っていたチャーシはその場から動いていないのが意外だが、敷地内からでるとは考えていないのかもしれないし、僕も出るつもりはなかった。


「ほら真琴、ちょっと門まで行って遠くを見てみようぜ?

 この家は丘の上にあるみたいだから見晴らし良さそうだしな」


「うん! どんなところなんだろうね

 他の家が見えるといいなー」


 数メートル進むとまず見えてきたのが大きなモニュメントの先端だった。おそらくあればアンクと言うやつだろうが、あまりの大きさに圧倒される。そのアンクを中心にしてこちら側にはいくつかの大きな建物が有り、向こう側には沢山の家が半分ピザのような半円形型に立ち並んでいた。


 どうやらこの村にある他の家は全部平地部にあり、その平地部を取り囲むように高い塀が円形状に築かれている。村の入り口まではこの屋敷から数百メートルほどの距離で、なんだか見下ろすような立地関係が嫌な予感を感じさせる。もしかして偉そうに貴族みたいな真似でもして恨まれていないことを願おう。


「みてみてお兄ちゃん! なんか時計台のついた建物があるね。

 もしかして学校かなぁ…… マコも通わないといけなかったらどうしよう」


「でも前みたいに陰でコソコソ言われることもないだろうしさ。

 楽しいところかもしれないからわからないうちに警戒しすぎない方がいいよ」


「そっか、そうだね、友達できるかもしれないしね!

 さすがお兄ちゃんは大人だなー」


 すぐに前向きに切り替えられる真琴のほうがずっと大人だよと言いたくなるが、そんなことは絶対表面には出せない。とにかくこれからは兄であり親でもあるのだから。


「旦那さま、向こうからこちらを見ている者たちがおります。

 念のため警戒しておりますが、どうやらただの村人だと思われます」


 いつの間にかすぐ隣に来ていたチャーシが声をかけてきて僕はドキっとした。そりゃ今まで空き家だったところに人の気配がすれば怪しまれてもおかしくはない。こちらも警戒しているが、それは向こうも同じことだろう。


「旦那さま、もしお客様だった場合、そのままのお召し物でいいのかにゃ?

 マコさまはちゃんとした衣装だけど、旦那さまは…… よれよれなのにゃ」


 メンマの言う通りで、マコは学校へ行くつもりだったから普通の洋服だったが、僕は部屋着と言うか寝巻にしていた中学ジャージのままだった。確かにこのまま人に見られるのは恥ずかしい。一旦着替えに戻った方が良さそうだ。


「村の人にこんなみすぼらしい格好を見られたら怪しまれちゃうかもなぁ。

 いったん戻って着替えてくるよ。

 真琴も一回戻ろう、それとも庭にいる?」


「うーん、マコも戻るよ。

 誰か知らない人が来たら怖いもん」


 と言うわけでまた全員でぞろぞろと歩いて屋敷へと戻っていった。どうやら初日から忙しくなりそうだ。僕はワクワクよりもドキドキが勝っている自分の情けなさを恥ずかしいと感じていたが、真琴の前では決して弱みを見せないと誓っていた。

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