7.大樹の手記 一章(閑話)

 はじめに


 私、小村大樹は、前世の記憶を持ったまま、地球からこのトラスへと転生した者である。地球では街の中華屋、いわゆるラーメン屋を営んでいたごく一般的な市民であった。これを読んだ者、読める者が私の孫である可能性を考えつつ、これまでの体験と注意点を記していこうと思う。



 一.命の概念


 まず地球とは根本的に異なる命の概念について記す。転生して魔人となった私は人間族と異なり生きるための食事は不要となった。これは便利ではあるが楽しみが一つ減ったとも言える。そのため、手に入る食材を用いて楽しむための食を考える時間を取ろうと考えた。だが魔人には農業を営んだり狩りをする習慣がないため食材の入手性はかなり悪い。そのため経口摂食をする種族の村へ出向く必要があるのだが、この辺りについては別途纏めるつもりだ。


 ではどのように生命を維持しているかと言うと、大気中に漂っている魔の成分を角から吸収していると考えられる。この自然界に漂う魔の成分を魔素、体内に取り込んだ成分を魔力と呼ぶことにする。以前新たなファッションを考案しようとして角へカバーをしたところ、窒息に似たような症状が現れたことがある。これは危険な行為なので絶対にやってはいけない。似たような注意点として、角が損傷することも避けるべきだと考えられるが、こちらは経験がなく試すことも憚られるため推測にすぎない。


 肉体についても人間族とは大きく異なる点がある。怪我をすると血が流れる点から考えると、心臓と血管は似たような形で存在しているようだ。しかし肉体的に死を迎えても命は尽きず、自分の肉体のそばにたたずむ空虚な存在となる。これを便宜上幽霊と呼び、幽霊と分離した肉体を死体と呼ぶことにする。


 幽霊の状態では物に触れることが出来ず、他人に認識もされず、会話もできないため不便である。幽霊として認識されていない状態でも障害物をすり抜けることは出来ないことは確認済みである。元の肉体へ戻る為には蘇生術を施してもらうか一定以上の魔素を吸収する必要がある。幽霊状態では他人から認識されない特性から考えると通りすがりの他人による蘇生はあまり期待できない。


 魔素を手早く吸収するには魔素の濃い場所へ赴くのが一番である。一例として生物が多く集まっている場所があるが、その他にもアンクと呼ばれるモニュメントには多くの魔素が集まっているので即時に蘇生することが出来る。しかし死体のある場所は危険があったから死を迎えたわけなので、生き返った直後に再度死ぬこともある。続けて何度死のうとも特に損害はないが、精神的にはかなりのダメージがあった。


 この概念に慣れないうちは危険を感じるたびに死の恐怖が付きまとうと思うが、ゲームで言えば無敵なのではなく残機無制限のようなものなので気にしないのが一番である。慣れてしまえばなんということはない。人間も似たような仕組みのはずだったが、天神の力が失われた今、生き返ることは出来ないかもしれない。


 魔人や魔族にとっての死は魂の寿命が尽きた時、と言うことになるが、肉体の老化がある程度の年齢で止まってしまうため周囲からはわかりにくい。しかし自分ではおぼろげにわかるものだ。私は現在百三歳であり、間もなく寿命を迎えるだろう。なぜならば、現在は生きる意欲に欠けており、やりたいこともなくやらねばならないことも見つからないからだ。そうなると魂は役目を終えたと判断しその一生を終えるはずである。


 ここまで書いた時にはそう考えていたのだが、この手記を書き始めてから現在百五歳になり、書き終えるまでまだしばらく掛かりそうだと思うと寿命が遠のいたように感じている。恐らくは書き終えた時に寿命を迎えるのだろう。魂が満足したその時に。




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