底辺ダンジョン配信者、襲撃を受ける

オーディール達はそのまま振り返ることなく小部屋を後にしていった。チャンスだと思った俺は足音を立てないように全速力でアリサのもとに駆け寄った。




「おいっ、大丈夫か! あいつらどっか行ったみたいだし逃げるぞ」


「———て」


「えっ? なんて言ったんだ」




「ドンッッッ、ドンッッッ」




 ダンジョンが丸ごと振動しているような地響きを肌で感じる。地震かと思ったが何かおかしい。とにかく逃げないとマズイと思ったその瞬間。




「ドガアアアアアアァァンッッ!!!」


「———ッッ!! ぐっぁ」




 壁が爆発した! いや正確には壁越しに殴られたのだと地面に転がったまま理解する。アリサもなんとか受け身を取れたようで崩壊したダンジョンの壁の方を見つめている。




「ハァーー、ハァー―」




 身長3mほどの一つ目のモンスターがそこにはいた。顔の半分以上を占めるのではないかというほど大きな目玉も異常だが、くるぶしに届くほどの異常な長さの腕が奇怪に映っていた。




「って、マズイマズイマズイ!!」




 単眼の巨人は指を組むとハンマーのように大きく振り上げる、視線の先には……アリサ! あんなの喰らったらひとたまりもないぞ!




「アリサぁ!!!」


「あっ」




 アリサの肩をつかんで無理やり回避する、巨人の一撃はダンジョンの床ごとぶち抜いて一つ下の階層まで穴が開くほどの威力だった。衝撃に巻き込まれてアリサともども穴に落下してしまったが、もし直撃していたら原型をとどめていなかっただろう。




「あっぶねぇ、おい!大丈夫か。動けるか!」


「うん……ありがとう」




 巨人は穴に手を突っ込んでしばらく探っていたが、届かないと判断すると地響きを鳴らしながら離れていった。これでしばらくは安全だろうか、それにしてもダンジョンを破壊するなんてとんでもない力だ




「なんなんだ、あのバケモンは。このダンジョンのモンスターにしては強すぎるだろ」


「……あいつは、キュクロプス。オーディールが私を殺すために召喚したんだわ」


「マジかよ、ってモンスターを召喚だと? 召喚魔法は確か第五階位からじゃ」


「『黄金妖精レプラカーン』オーディール、魔天狼まてんろうのリーダーにして希代の魔術士マジックキャスターである彼なら造作もないでしょうね」


「魔天狼まてんろう……難関ダンジョン攻略組でもトップクラスの大物じゃねぇか。じゃあ、やっぱりあんたは『白純プリンセス』アリサなのか」




 アリサは自嘲するような笑みを浮かべて肩をすくめる。白雪のように透き通った純白の髪と女神さえも嫉妬するであろう美貌は噂以上だ。さっきの話が本当なら彼女はパーティからお荷物だからと『追放』されたのだろう。詳しい経緯は分からないがモンスターをけしかけるなんて異常だ。




「とにかく、あいつから逃げるぞ。ここにいてもどうしようもないだろう」


「……そう、巻き込んで申し訳ないからあなただけは逃がしてあげるわ」


「は? どういうことだよ」


「オーディールのレベルは91。召喚魔法は術者のレベルを2で割った値が最大レベルになるからあいつのレベルはだいたい40って所ね。私のレベルは19、あなたもそのくらいでしょうからあいつを倒すことは不可能なの」




 彼女の表情は全てに絶望したように達観していた。確かにあの化け物を倒すことはできないかも知れないがまだやれることはあるはずだ。




「別の道を使って地上にあがれないのか?」


「何回かこのダンジョンに通っているけど別のルートはないわ。このダンジョンは一本道よ」


「……小部屋に誘導して、あいつの脇をすり抜ければ」


「召喚されたキュクロプスは一度認識したターゲットの魔力の色を透視することが出来るの。私がどこに隠れていても、あいつの眼には私の影が見えているでしょうね。オーディールはあなたの事を認識していなかったから、執拗に狙われることはないわ」




 静寂がやけに耳に障る、どうして彼女はこんなに冷静なんだ。何かものすごく嫌な気がしてならない。アリサは黙りこくる俺を見て安心させるように少し微笑んだ。




「別に気にする必要はないわ、あなたはダンジョンを脱出して普通の日常に戻ればいいの。私を殺せばあいつも1時間くらいで消滅するはずだから安心して」


「…………」


「オーディール達の話を聞いていたかしら、今日はねパーティ全員の蘇生契約の更新をギルドでする予定だったの。私の蘇生回数はあと1回あったはずだけど、オーディールの秘書が管理していたからおそらくは……ね?」

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