第8話

 目が覚めた。

 リクライニングシートでは、熟睡できなかった。


 私は、家族から逃げていたんだろうか。


 あの頃、両親のそばにいなきゃいけなかったのかもしれない。



 でも、いまさら。

 これは、あとのまつり。



 何が正しかったのか、わからない。

 謝っても、さっちゃんは帰ってこない。


 夢でみたものが事実なら、お母さんのかなしみやくるしみは、私には想像もできない。


 それを遠目から見ていたお父さんも、きっと。



 私は、向き合わなきゃいけない。

 さっちゃんが、教えてくれたんだ。

 大事なものを忘れないで、と。


 ネカフェを出てから、一度アパートに戻ることにした。実家に行く準備をしよう。


 アパートのドアの鍵があいている。

 ゆっくり、私はドアをあけた。


 足音をたてないように、ゆっくり……


 私の部屋に、お父さんがいた。

 さっちゃんのぬいぐるみと、バケツに入ったヘドロ。

 

「お父さん、どうして?」


「こうしなきゃ、おまえ、帰ってこないだろう……?」


 涙を浮かべるお父さんの目は、私を見ていなかった。



 ぬいぐるみが、床に落ちる。


「きみちゃん……」


 さっちゃんが、ぬいぐるみをかかえて、私を見ている。


 さっちゃんの目を見るのがこわくて、私はお父さんの手を取り


「おうちに、帰ろうね。お父さん」


 

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