彼女は死霊を愛おしむ
六城綴
第一章
第一節.オカルトのお悩みは是非とも当方まで
第一章 第一節 序
もう、嫌だ。
黄昏時を過ぎて月の眩さが際立ち始めてなお、彼女は暗がりの中、ただベッドの上で膝を抱え、膝に顔を埋めるばかりだった。逃げ道を閉ざされた昼間の熱が、無数のナメクジのように全身を這いずり回り、長い髪が背中に頬に張り付いて、それでも空調の一つもつけぬまま、まんじりともせずに。
誰も助けてくれない。誰に助けを乞うこともできない。縋りついた一縷の望みは、何一つ役に立たなかった。
どうすればいい。最早どうしようもない。ただこうして、静かに赦しがもたらされるのを待つより他に、道はない。あるいは、生き続ける限り、終わりはないのかもしれない。流れ出た汗がシーツにじわりとシミを広げる中、ならばいっそのことと考え始め――ふと、じぃ、と、焼け付くような視線を感じた。
にわかに総毛立ちカタカタと震えだす身体を一層強く掻き抱き、ただ瞑目して気配が消えるのを待つ。今までもそうしてきたように。自分にはそれしかできないのだからと。そうしていれば、いつもどおり、いずれはこの錯覚もなくなるに違いない。
それ以外にできることがあるとしたら……彼女はひたすらに、心の中でいつもと同じ言葉を繰り返した。
一体どれほど経ったのだろうか。ふと気づくと震えは収まり、絡みつく暑さと汗の気持ち悪さばかりが際立っていた。
そうか、今は夏で、もう夜だった。今更のように思い至った彼女は、のしかかってきた気怠さに深い溜め息を漏らしながらも、せめて電気をつけようと、ふらりと顔を上げた。
ベッドサイドテーブルのリモコンを操作すると、すぐに部屋は明るくなった。途端、今度は暑さが気になって仕方がなくなり、よろよろと立ち上がって、頼りない足取りでベランダへと続く窓に近づいた。
――その、すぐ後。彼女はベランダから真っ逆さまに落ちた。隣室の人間はその直前に、悲鳴とも笑い声ともつかない女の声を聞いたという。
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