黄金の魔術

木山碧人

第1話 黄金の夜


 ドイツ。ミュンヘン。レジデンツ宮殿。皇帝の間。

  

 高い天井には肖像画が描かれ、シャンデリアがかかる。


 数多くの高窓があり、窓の間には白い石像が飾られている。


 そんな豪華絢爛な部屋の中央には、大理石のテーブルがあった。

 

 時刻は夜。シャンデリアのロウソクが辺りを照らし、雨の音が響く。


 ピカッと高窓が光ると、少し遅れて、轟くような雷の音が聞こえてきた。


「魔術とは意思に応じて変化を生ぜしめる学にして術である」


 タロットカードをシャッフルしながら語るのは、一人の男。


 灰色のローブに身を包み、白黒の道化仮面をつけ、背丈は大きい。


 フードを深くかぶり、髪は見えず、変声機で声は異常に低くなっている。


「そんなオカルト話、超どうでもいいから、カードを早く配って」


 立ち合うのは、赤髪ツインテールでメイド服を着た女性、セレーナ。


 テーブルの隅を指で叩きながら、配られるその時を今か今かと待っている。


「……」


 その様子を不安そうな目で見つめるのは、青い制服を着た少年ジェノ。


 肌は褐色、左頬には一本線の傷があり、唇を自身の歯で軽く噛んでいる。


 右手には黒いアタッシュケースを持っており、握る手には力が入っていた。


「意思が揺らげば、結果も揺らぐ。後悔なき選択を」


 男はカードを配り、テーブルには22枚のカードが並ぶ。


 室内にいる二人の視線は、自ずとセレーナに注がれていく。


「ふん……。生憎だけど、生まれてこの方、後悔したことないのよねぇ!!」


 セレーナは視線に屈することなく、己の意思でカードを選び取った。

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