03 お人柄を感じさせる若い方々につきまして

2023/06/14(水)10:55


 今回も一体何様なのよ、優美香です。


 他サイトのエッセイでも、以前に触れた出来事でございます。重複がバリバリあるとは思いますが、その辺はすみません。

 今年の1月9日、シフト休だったんです。わたしの記憶が確かならば(笑)朝9時ちょい過ぎ、地元の寄席(キャパ上限25名)からLINEが来ました。

「本日から三日間、朝11時から色んな落語家さんが来られます!

是非とも、お立ち寄りください!」

 しかも料金は特に定めていないという。いわゆる“”投げ銭”っぽくしたい、らしい。

 ん?

 そちら昼席は14時からじゃ、ありませんでしたっけ?

 まあー、いっかぁ。ヒマだし! しっかし11時からは早いなあ。寄席周辺は十日戎という宗教イベント一色ではないですか。今日は宵えびす、か……。

(Google先生に聞いてみた!

 十日戎とは、漁業の神、商売繁盛の神、五穀豊穣の神として有名な「七福神」の戎(恵比寿)様を祀るお祭りです。 毎年1月9日から3日間行われ、9日を宵戎(よいえびす)、10日を本戎(ほんえびす)、11日を残り福といいます。

……だそうです)

 どうせヒマだし、ついでにえべっさんお詣りとかもアリかね? いやいや、それはお詣りに行く態度ではない。とても、とっても不謹慎……などと逡巡しつつ用意して開演に間に合うようにバスに乗る。

 すると……。

 お着物を身につけている若者が何人か、かたまっている。

 youtubeで観たことある人もない人も、かなり前に一度だけ高座を拝見した方もいるが。

 なんだか一所懸命に呼び込みしているみたいなんだけど……ちょっとムリがありそうな立地なのね。

 某旧公社のバイクや、ちっこい軽自動車が出たり入ったりするだけ。普段でもうら寂しい人通り。いわゆる路地裏。

「いっちょ正月明けに景気よく落語でも観たろかぃ!」的な御仁は……。

 見事に、あたし以外。

 ひとりもいねええええええええええええーーーーーー!

「ヒエッ」

 まるでヒキガエルを踏んづけた時の変な音のような声が出た。それを目ざとく見つけた若手さんが!

 その名も笑福亭大智さんだ! 前述した“一度だけ高座を観ました”噺家さまでした。

「あっ! どうぞどうぞ!」

「あ、お、おぅ……(コミュ障の言語障害が発症するが如く)は、はい」

 観念して寄席入口へと近づく。覗いてみたフロアの中は、がらーんとしている。

「ひ、ひぇ」

 大智さんが、怖気づくわたしに無垢なワンコのような笑顔で話しかけてきた。

「あっ! この前、ぼくの会に来てくださいましたよね!」

 んもうピッカピカの笑顔。生まれたての子どもが母親に疑いを知らずに微笑みかけるかのような笑顔。

「えっ、憶えててくださったんですか?!」

「当ったり前じゃないですか!」

 正直言って、うれしかったー! というか、憶えていてくださって、ありがたかったです!

 で、そこにいらした一人の噺家さんが高座を打ってくださいました。

 はじめて拝聴する方でした。森乃石松さん。

 最初はわたししかいなかったから、やりづらかっただろうなあ……。それに、こちらも妙に落ち着かなくて

「えーん。帰ってもいいですかー(汗笑)」

 なんて甘えちゃったりしました。そこを石松さんは額の汗を拭いながら

「待って! もうちょっとしたら、同級生が来るから!」

 って、会話してくださったり(無理矢理で、ごめんなさい)。

 噺が一通り終わってから、踊ってくださった演奏なしの「かっぽれ」は、とても色っぽかったです。

 演者が一人終わるごとに退場、とのことで。投げ銭として1000円札を大智さんが持っていた籠に置いてきました。

 んで、ちょっとしてからフロアを覗いてみたら……やっぱり誰もいませんでした(なんてこったよ!)。

 けど、あきらかにわたしのような客サイドではなさそうな若い男性が「スッ」と立っていらっしゃる。

 誰? バイトさん?

 あ、違うみたい。法被はっぴを着てる……。濃紺の、ぱりっとした法被の衿先――真っ白な筆文字で、なにか書いているよ?

 ……和服のカラーコードを参照すると「鉄紺」という色目の、法被だと思うんですが。

(補足説明:https://www.yu-kameoka.com/column/法被の部位の名称を解説!オーダー時に知っておきたい紋の名称もご紹介、より。

 衿(えり)とは、首回りから胸元につながる細長い部分のことです。

 腹部あたりに来る衿の端を「衿先(えりさき)」、首回りの汚れやすい部分に重ねた衿のことを

「掛け衿(かけえり)」と呼びます。掛け衿は、「共衿(ともえり)」や「上衿(うわえり)」

と呼ばれることも多いです)

 男性の法被の衿先には白文字で「桂八十助」と記されている。この人の存在感が凄かった。拙エッセイでも書かせていただきましたけれども。

 爽やかで堂々としていて、尚且つ控えめ。物静かな佇まいに新年早々、衝撃を受けてしまった。

 あとから大智さんが教えてくださったのだが「米朝一門の落語家さんですよ!」とのこと。

 それで納得しました。他の方の落語会に寄せてもらったりすると「米朝一門の噺家は全員が礼儀正しくて、こっち恥ずかしくなっちゃう」かのようなマクラを振って会場の笑いを誘っていたりするから。

 落語業界の人たちからもネタにされるほど米朝一門は、凄いものなんだなあ……と、痛感しちゃったりなんかする。

 その八十助さん、わたしともうひとりの若いお嬢さん(おそらく大智さんと石松さんが一所懸命に呼び込みしたのだろう)の前で、雀が麹をちゅんちゅんと食べて酔ってしまう噺を披露してくださいました。最初から最後まで、あったかくて控えめな空気感は変わらない御方だと思いました。

 余談になりますが。

 ひとりかふたりしか観客がいないのに、誠実に噺を披露してくださる落語家さんがどれだけ有難いか……わたしは、この日を基点に考えるようになります。

 さてさて八十助さんミニミニ高座時間が終了。大智さんの持っている籠に1000円札を入れると。また話しかけられる。

「何度か、ここには来られているんですか?」

「はい」

「お目当ての落語家さんや好きな落語家さんは、いらっしゃいます?」

 ……うっ。

 顔が熱くなってくる。

「しょ、笑助さん……」

「あー! 笑助にいさん! 今日、来られますよ! あ、ほら。すぐそこに立ってる! 見てみて!」

 ギャース! 

 窒息しそう、あたし!

 大智さんが言う通り、寄席のドアを開けると。狭い道の片隅に青緑色の羽織と、たしか……浅葱色あさぎいろ? と空色の生地をパッチワークにしたお着物を着用されていらしたと記憶しているんですが……笑福亭笑助さんがいらっしゃいました。

 わたしの脳みそ、少ない回路がブチブチ焼けきれそうですw 陰キャ姐さん、それこそ一生分がんばって話しかけてみることを試みました(心臓ドキドキが止まらない!)。ちょっとでも図々しい関西女性になるんだ!

「笑助さんが来られることわかっていたら、昨日は欠勤して美容院に行ったのに」

 長身痩躯の笑助さんは「ふふっ」と口元をゆるめて仰いました。

「そんなことしなくても、お綺麗ですよ」

 はいワタクシ一瞬で脳みそ回路が焼けきれましたw速攻でピアスだけでも新しいものにしようと買いに走りましたwww

 さすがに芸歴が長い落語家さんです。鬱陶しい陰キャ女のアシライは十二分に慣れている(滝汗)。



 

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