星鎧のギア・フィーネ〜追放先の惑星で神に育てられた少年に見初められまして~

古森きり@『不遇王子が冷酷復讐者』配信中

星鎧のギア・フィーネ〜追放先の惑星で神に育てられた少年に見初められまして~

 

 あ、これ――ロボットアニメ『星鎧せいがいのギア・フィーネ』の世界だ。

 

 目の前で繰り広げられる婚約破棄騒動。

 悪役美人秘書官レーネ・ローティに、婚約者ガウディ・エズン様を奪われた“雑学者”ヒロナ・スローヴェは頭からお酒をかけられて笑いものにされるところから始まる。

 イミグレーションフロント――所謂惑星移民船で生まれ育ったヒロナは雑学者と呼ばれて馬鹿にされてた。

 見た目も地味で、今日の婚約発表会にも薄いベージュのドレスを着てきてイミグレーションフロントベースII[エーラ・ドゥ・アース]の軍部を纏める実働部隊総司令官のガウディ・エズンとは到底釣り合わない。

 といっても、ガウディ・エズンは仮面の美男子と言われていて素顔は誰も知らないのだけれど。

 ブロンドの長い髪を長い爪で後ろへ流したレーネがクスクス楽しそうに笑いながら、聞き覚えのあるセリフを放つ。

 

「地味でなにをやっているかもわからない不気味な学者であるあなたなんかが、ガウディ様と結婚できるなんて本当に思ってたの? あなたが携わった論文も、全部他の人から奪ったものだったんですって? 後輩たちが嘆いていたわよ」

「なんだって……? それは本当なのか? レディ・ローティ」

「ええ。嘘だとお思いなら大学にお問い合わせくださいな。みんなそう証言しておりましたわよ」

「それは……もし本当なら大問題だぞ」

「スローヴェ女史、なにか言い返すことはないのかね?」

 

 座り込んだまま、ヒロナ・スローヴェは俯いて言い返すことはない。

 出席者たちは言葉を失い、無言を肯定と受け取る。

 レーネが自信満々に放った偽りは真実として浸透し、ヒロナは警備員たちに支えられて出ていく。

 

「……うぉえっ……!」

「大丈夫ですか?」

「お酒の匂い……わた……ぐっ」

「い、医務室に!」

 

 が、実はお酒にかなり弱いヒロナは酒を被ったことで酔ってしまったのだ。

 アニメはここからスタートする。

 移民宇宙船の中で行われた派手な婚約破棄からの……SFロボットアニメ――『星鎧のギア・フィーネ』。

 ヒロインであり主人公の一人であるヒロナ・スローヴェは、一期のラストで死ぬ。

 私の推しキャラで、ヒロナに想いを寄せることになる主人公の一人――ミュエル・ユオの目の前で。

 

「気持ち悪い……ぐるぐる、する……」

「もう少しですから頑張ってください!」

「うおおえええええええ!」

「「わあああああ!」」

 

 警備さん、すみません。

 その言葉を最後に、私――ヒロナ・スローヴェはぶっ倒れた。

 冒頭シーン終了が、なんとも締まらない感じで始まるけれどオープニングがめちゃくちゃかっこよかったので引き込まれたの。

 なんと人気アイドルグループ『CRYWNクラウン』の歌唱力お化け、岡山リントと鳴海ケイトコンビが担当した。

 疾走感があって鬼リピ確定。

 1クールで主人公の一人が死ぬという衝撃的な終わり方も手伝って、2クール目ではヒロナを失ったミュエルが暴走していく――

 

「あえ……?」

 

 夢?

 それにしては最悪な夢だったな。

『星鎧のギア・フィーネ』の主人公ヒロナになる夢だなんて、そりゃ確かに私はもう一人の成長型チート主人公ミュエルが推しだけど、いくらその相手役と言っても死にキャラヒロインになるのは気分が……。

 

「起きたかい」

「エ――ガ、ガウディ・エズン!?」

 

 見覚えのない部屋だなぁ、ホテルかなぁ、と思いながら上半身を起こすと、隣の椅子にタブレットを持っている仮面の不審者……もといヒロナの元婚約者ガウディ・エズンが座っていた。

 濃藍色の髪を膝の下まで伸ばし、それを一つに結って左肩から垂らしている。

 顔の上半分、鼻から上は仮面で覆われ口許には常に胡散臭い笑み。

 ロボアニメ定番ともいうべき、仮面の敵将。

 敵――そう、ガウディ・エズンは1クール目で正体を現すラスボスだ。

 そんな男と婚約者だったのが、ヒロナ。

 考古学と言語学、宇宙学、医学、海洋学などの多分野で活躍していたイミグレーションフロントワンの研究者。

 あまりにも多種多様な学問分野に精通していたため、独身女とこの地味な見た目、引っ込み思案な性格もまとめて揶揄され『雑学者』と呼ばれていた。

 でも、その能力をたった一人だけ認めてくれた人がいたのだ。

 それはミュエルと会話の中で明かされていた――ヒロナの記憶の中にもある。

 大学で研究に勤しんでいたヒロナに声をかけてきた、この男。

 あれ、でも視界がぼやけて、それっぽく見えるだけで違うだけかも?

 婚約破棄した直後に、元婚約者の部屋にいるわけなくない?

 私そんなに視力悪くなかったはずなんだけどなぁ、と思っていたら男が立ち上がって枕元の眼鏡を私の顔にかけてくれた。

 仮面越しに薄い緑色の瞳が透けて見える。

 あ、アニメでは2クールラストにようやく顔が晒される――イケメンだ。

 

「……ガウディ、さん」

 

 ヒロナの口から溢れた名前。

 今の、私の発言じゃない。

 え? どうなってるの?

 

「驚かせたことは申し訳なく思っているよ。でも――」

「必要なこと……ですよね?」

 

 今度は私の言葉が漏れた。

 自分の体のようで自分の体ではないような。

 夢にしてはリアルすぎるし、ベッドシーツの感触がツルツルスベスベで気持ちがいい。

 なにより耳が孕むんじゃないか、という美声が間近で響いて意識が一瞬どっか飛んでいった気がした。

 さすが『星鎧のギア・フィーネ』最強のイケボ。

 

「やはり君は優秀だな。死なすには惜しい」

「え?」

 

 手袋をした指先がヒロナの口許をなぞっていく。

 仮面キャラの妖艶な笑みの胡散臭さヤバァ……。

 

「これを持っていなさい」

「これは……?」

 

 手渡されたのはUSBメモリ?

 なんでこんなものを?

 

「レーネ・ローティは君を新惑星捜索に任命すると言っていた。このままでは単身調査用カプセルで[エーラ・ドゥ・アース]を追い出される」

「え!? そ、それって……!」

 

 事実上の処刑じゃない!

 ……って、私その展開知ってるけど、このシーンは知らないぞ!?

 アニメでやってないよ、ヒロナとガウディのシーンなんてなかった!

 パーティーを追い出され、オープニングが流れたあといきなり小さな宇宙船で惑星『RE・Earth《リ・アース》』を見つけるのだ。

 だから、これってそのオープニングで吹っ飛ばされていた間のシーン?

 は? ちょっと待って待って、これ、夢、だよね?

 

「優秀な君でも、なんのしるべもなく生き延びるのは不可能に近い。持っていきなさい。必ず君の助けになる」

「あ……、……あの、ガウディさんは……どうして……」

 

 どうしてレーネを選んだのか。

 ヒロナのことを心配して、こんなものを渡していたなんて知らなかった。

 アニメでやってないよ、こんなこと。

 

「少なくとも君を完全に切り捨てるつもりはなかったよ、私はね。ただ、今のところ利用価値は彼女の方が高い。馬鹿な女は使い勝手がいいからね」

「そ……そう、ですか」

 

 ……マジで言ったの? コレ? ヒロナが『RE・Earth《リ・アース》』を見つける前に? 追放前の最後の別れ的なシーンだよね?

 その時に、マジで言ったの?

 おぉい、イケメンのラスボスだからってなに言っても許されると思うなよ!?

 

「信じなくてもいい。私は君のような人間は好ましく思っている。ただ、私の理想を叶えるために、君は純粋すぎるし美しすぎた。本気で愛し合ってしまう前に、離れるのがお互いのためだろう」

「…………」

 

 イ……イケメンラスボスにしか許されないセリフだな。

 え? 待って?

 じゃあ、ガウディ・エズンってヒロナのことを本気で好きになりかけてたの?

 それで、ヒロナを殺したレーネに悪事を全部被せて殺したの?

 あれ? そう考えると……イケメンラスボスの株が爆上がりするぞ!?

 

「私は本気でした」

 

 今のは私じゃない。

 ヒロナのセリフだ。

 ……ヒロナは、本気でガウディが好きだったのか。

 

「私は……私は……」

「……君のそういう純粋なところが、私には眩しすぎたんだよ。私がこれからこのイミグレーションフロントでやろうとしていることは、君を傷つけてしまう。正直君に見られたくない。だからどうか私のことは忘れて、君の好きな研究を好きなだけできる場所で幸せになっておくれ」

「――っ!」

 

 ガウディの腕の中に飛び込むヒロナ。

 私の意思ではない。

 いったいどうなっているの?

 ヒロナの視点、ヒロナの体の中。

 時々私の意思が反映されるけど、こうして反映されないこともある。

 広い胸、長くて逞しい腕がヒロナの体を抱き締める。

 少し甘みのある、優しくて爽やかな香り。

 ヤ、ヤベエエエエエエ……! お、大人の男の匂い〜! の、脳が痺れる〜! 耳から入るイケボで考える脳細胞死んでるってぇ。

 

「さようなら、ヒロナ」

「……さようなら、ガウディさん……」

 

 ひとしきり泣いたヒロナの頭を撫でて、ガウディが部屋から出ていく。

 とんでもねぇ、悪い男だ……。

 でも、そうだったんだ。

 アニメでは語られていなかったけど、ヒロナはガウディがイミグレーションフロント[エーラ・ドゥ・アース]で反乱を起こすことを、なんとなくだけど聞かされていたんだ。

 まあ、さすがに計画すべては知らなかっただろうけれど……。

 

「ヒロナになってる」

 

 両手をグーパーに広げたり握ったりして確認する。

 なんとなく、物語の強制力みたいなのが働く時は『ヒロナ・スローヴェ』として動いて喋るみたい。

 それ以外の時は“私”みたい。

 私――真佐美智葉まさみちは

 新卒OL一年生。趣味は二次創作の夢女子八年目。

『星鎧のギア・フィーネ』もイケメンとイケボを摂取するためにハマって見ていた。

 推しはヒロナが一話前半で発見する『RE・Earth《リ・アース》』という惑星で唯一生き延びていた美少年、ミュエル・ユオ。

 

「いったい、どうなってるの……?」



◇◆◇◆◇



「――本当にあった……!」

 

 ヒロナ・スローヴェは婚約発表披露パーティーで婚約者――もといラスボス仮面――ガウディ・エズンを、悪女秘書官レーネ・ローティに奪われる。

 まあ、どうやらこれに関してはガウディがレーネを自分の反乱計画に利用するために、利用するには愛おしすぎたヒロナを自分という悪い男から逃すために行った茶番だったみたいだけれど。

 レーネはヒロナがどんだけ気に入らないのか、ヒロナの関わる学会全部にかけあってヒロナを『新惑星探索』に任命し、一人乗りの小型宇宙船に乗って放り出された。

 事実上の処刑に等しい行為である。

 でも、元婚約者ガウディから手渡されたUSBメモリをメインコンピュータに差し込んだところ、とある座標が表示された。

 ひとまずそこを目指してワープをしてみたわけだが――眼下には、青い星がゆっくりと軸回転していたのだ。

 これがアニメで争いの火種となる惑星『RE・Earth《リ・アース》』。

 

 SFロボアニメ『星鎧のギア・フィーネ』は比較的よくある、故郷の惑星を滅ぼしてしまった人類が巨大な移民船団で人が住める惑星を探す――という設定から始まる。

 主人公ヒロナはその移民船団イミグレーションフロントベースIIツー、[エーラ・ドゥ・アース]の多種多様な学問に秀でた女学者。

 [エーラ・ドゥ・アース]の軍部、実働部隊総司令官ガウディ・エズンと婚約していたが、一方的にヒロナをライバル視してくる統治局局長の秘書官レーネに陥れられて彼を奪われてしまう。

 それだけでなく、こうしてイミグレーションフロントから追い出されて単身新惑星探索に行かされた。

 普通なら死んでも不思議ではないが、こうして人が住めそうな惑星を発見してしまう、という豪運。

 アニメでは「ご都合主義すぎる」と言われていたけれど、ガウディがヒロナを生き延びさせるために『RE・Earth《リ・アース》』の座標を教えていたとしたらなにも不思議じゃないな。

 なにより、ガウディはこの『RE・Earth《リ・アース》』を[エーラ・ドゥ・アース]に発見させて、移住しようとするイミグレーションフロント内を制圧。

 反旗を翻し、他のイミグレーションフロントまで壊滅させようとする。

 それに協力するのが『RE・Earth《リ・アース》』でヒロナが出会う、もう一人の主人公――ミュエル・ユオ。

 1クール目の主人公その2だ。

 いやね、まさかさ、ラブコメからのヒロイン死亡からのヒーロー闇落ちとか誰が想像しますか?

 2クール目で平々凡々な男子校生が三人目の主人公として発表された時は……荒れたよ。

 当たり前じゃん? 1クール目で築いたものを全部1クール目ラストでぶち壊し、なに平然と新しい主人公とヒロインを出してきてんじゃウォラーァー! って、なるに決まってるじゃん?

 それでもヒロナを失って闇堕ちしたミュエルの行く末が気になった夢女子の私は、2クール目最終話までしっかりと見届けましたとも。

 ガウディにほぼほぼそそのかされた形で、イミグレーションフロントに憎悪を向けるミュエル。

 それと戦い、イミグレーションフロントを守りながら、なんとか『RE・Earth《リ・アース》』に移住を進めようとする第三主人公サイド。

 1クール目で散りばめられていた伏線をごっそり回収していったのには驚いた。

 [エーラ・ドゥ・アース]の視点でチラチラ出るだけのキャラが、2クール目では大活躍。

 お前らどこに隠れてたんだ、ってくらい。

 なんかこう、完全に視点が変わった、って感じ。

 でも、じゃあなんでヒロナとミュエルがゆっくり絆を深めていく1クール目だったんだ、って思うけど……孤独で機械的だったミュエルが“人間”に成長していく過程をじっくり見せられたあとだからこそ、人間として成長したミュエルが『RE・Earth《リ・アース》』にヒロナを殺した[エーラ・ドゥ・アース]の移住を拒否するのがよくわかる。

 でも、2クール目も前半は丁寧に[エーラ・ドゥ・アース]での様子を描いていたからこそ。第三主人公サイドのやり方が「うああああああああ! わかるけどーーーぉ!」って、胸を掻きむしりたくなるのよ。

 最後まで敵として立ちはだかったミュエルとガウディ。

 私は泣いたよ。

 なんでだよ、推しが幸せにならねぇじゃねぇかよ……と。

 ヒロナの体に入って、ガウディのヒロナへの気持ちを知ったあとだとまた泣けてくるんですけど?

 おい、嘘だろガウディ・エズン、お前もヒロナのこと大好きだったのかよ……おぉい……。

 こんなのってないよ。

 こんなの知りたくなかったよ。

 だってミュエルもガウディも負けて死んじゃうんだぞ?

 ヒロナなんか、レーネのとち狂ったレベルの嫉妬で調査部隊に暗殺されちゃうんだぞ?

 

 ――待って! ヒロナ、今! 私!

 

 え? え? え? 待って待って待って?

 ヒロナ、死にヒロインだよ?

 私、死ぬ?

 

「……し、死にたくない」

 

 そもそも、私はなんでヒロナになっているの!?

 最後の記憶が酒飲んで酒飲んで酒飲んだ記憶しかない。

 ……まさか、急性アルコール中毒……?

 だとしてもなんでヒロナの中に憑依してるの?

 

『着陸に適したポイントを確認――着陸しますか?』

「あ、そろそろ着陸の準備しなきゃ」

 

 そして私が一人言を呟いている間、ヒロナはまったく関与せず。

 本気で私、どういう状況なのだろうか?

 

「……いつまでもくよくよしていられませんよね。ガウディさんが教えてくれた場所で、頑張りましょう! [エーラ・ドゥ・アース]の皆さんが移住してこれる惑星だといいのですが――うーん、酸素量、重力ともに現時点の観測で地球にほぼ遜色ない。生物反応もありますし、これは……もしかしたら移住可能なのでは……いえ、生態系を確認しなければ――」

 

 キーボードを打ちながら、ヒロナが効果準備を始める。

 そして、問題なく降下。

 新天地『RE・Earth《リ・アース》』に着陸した。

 しかし、問題はここからだ。

 

「はあ……すごい……!」

 

 着陸地点はジャングルのど真ん中。

 川が近く、大気汚染度は3%。

 タブレットを持って、宇宙服のまま一度外に出る。

 太陽? 宇宙空間にいた時に計測した惑星周辺情報を見ると、太陽のような恒星がこの惑星の近くにもあるようだ。

 

「うぅん……すごい。地球とほぼ変わらない環境だわ。酸素もあるし、生物が生存、進化するのになにも問題のない。この星なら移住しても問題なさそう……だけど」

 

 ヒロナの体もすごいな。

 この小難しい情報量を、ぽちぽちと理解して操作してまとめていく。

 体に憑依している私にはちっとも理解できないのだが、体の持ち主はしっかりと理解して動いている。

 この辺りはアニメで放送された部分だから、体の主導権はヒロナ本人。

 もう、これいったいどういう状況なの?

 とりあえず、私の記憶の中にあるシーンの時は、私はヒロナの体をどうにもできない――らしい。

 ヒロナは宇宙服のヘルメットを外す。

 ふう、と息を吐き出して、空を見上げた。

 美しい、青い空。

 

「ガウディさん……どうしてこの惑星の座標を知っていたのでしょうか……。知っていたのなら上に報告すればいいのに。はあ……」

 

 そう呟き、目を伏せるヒロナ。

 アニメを見ていた時は『あんな婚約者を庇いもしない変態仮面を、いつまで引きずってんだ! 捨てろ捨てろ!』と思っていたけれど、別れ際のことを知ってしまった今だと甘酸っぺええええっ……!

 あんなの引きずるよなぁ。

「よいしょっと……」

 

 しばらくはアニメシーンが続くので、のんびりとヒロナを見守る。

 ここからヒロナは探索ドローンを飛ばして周辺をマッピングしつつ、生態調査を開始。

 小型船を拠点にして、水と食糧の確保も同時進行で始める。

 川の水質調査で問題ないという数値に感動しつつ、その周りに畑の設置。

 移民船から持ってきた十種類の野菜の種を植える。

 さらに小型船からキャンプのテントを展開。

 拠点を広げて、土質も調査し始める。

 

「うん……見たところ栄養素も多い。これなら種も芽を出すでしょう。今のところ不安要素は少ないですね。虫も――地球のものにとても近い。木々も該当種がある。虫がいるということは、大きな動物や意思疎通ができる知的生命体がいても不思議ではないのだけれど……」

 

 ぶつぶつ独り言を言いながら、パソコンをいじくりまわすヒロナ。

 作物が実るまでは携帯食をもぐもぐ。

 あ、味が微妙。

 でも、このあたりはカットで流された部分だからこれはこれで面白いな。

 ……確か、この辺りがひと段落着いてから探索ドローンでマップングした周辺を自分で探索し始めるんだよね。

 そして、”遺跡”を見つける――。

 その遺跡にミュエルがいるのだ。

 運命の出会い、ってやつよね。

 あれ、でも……その時に……。

 

「よし、そろそろ周辺十キロ圏内のマッピングが終わりましたね。実地探索をして、宇宙から発見したイミグレーションフロントが下りられる場所に行ってみましょう!」

 

 大きなリュックを背負い、レーザーガンを腰のホルダーに装備。

 防御力の高い、尚且つ動きやすいフィットスペーススーツに着替えて拠点から旅立つヒロナ。

 アニメではこの辺りも簡略化されていたけれど、結構歩いてたんだなぁ。

 ――どちらにしてもアニメで流れている部分は本来の体の持ち主、ヒロナが動く。

 私はヒロナ視点で景色を見て、声を出そうとしても無駄。

 アニメも観るけどラノベも漫画も大好きな私としては、一般的な転生とは全然違う現状に転げ回りたい。

 いや、ヒロナのことは好きなので、私のせいで彼女が消えるのは嫌なんだけど〜……。

 それじゃあ私ってなんで今ヒロナ視点?

 

「あ……あれは……建物?」

 

 はあ、と溜息を吐き出すヒロナは高い緑色の建物を見上げた。

 完全に蔦や木々に囲まれているけれど、間違いなく人工物。

 これがいわゆる”遺跡”だ。

 ヒロナは一度ふう、と溜息を吐いてリュックを背負い直して建物に向けて歩き出す。

 楕円形の、塔のような建物。

 蔦が絡みついているし、土埃で汚れているけれど基本色は白みたい。

 壁に手を当てながら建物を一周しようと歩く。

 アニメでは飛ばされたシーンだわ。

 

「あ、これだわ」

 

 ヒロナのセリフはアニメの時のものだ。

 リュックからミニPCを取り出して有線で壁に繋ぐと、高速でパスワードを解除していく。

 ……アニメでわかってたけれど、ヒロナって本当にハイスペックなのよね。

 あっという間にモニターは『allgreen』で埋め尽くされた。

 その間約三分。

 ミニPCをリュックにしまってから、いよいよ建物の中に入る。

 

「これは……二足歩行兵器の収容ドッグね。ということはかなり近代的な技術力を持っていたみたいだけれど……二足歩行兵器そのものは残っていないのかしら? あれば型式からイミグレーションフロントの二足歩行兵器と比較して技術力の比較ができると思うんだけれど……制御盤があれば……」

 

 そう言ってきょろきょろと辺りを見回すヒロナ。

 右上のクレーンの上に視線を止めると、階段で登って制御盤にミニPCを繋げる。

 再び高速でいくつものウインドウがモニターに映し出され、それを即座に解除・解析していく。

 私はヒロナの中からなにが起こっているのかわけもわからず眺めているだけ。

 

「これは……」

「手を挙げて」

 

 キターーーーーーーーーーー!!

 後頭部にゴリ、と硬いものが押し当てられる。

 ミニPCから手を放し、両手を上げるヒロナ。

 後ろから聞こえてきた声は年若い男の子の声。

 

「――未登録生物……?」

「えっと、言語は、通じますか? 私はヒロナ・スローヴェと申します」

「ヒ、ロ、ナ……。該当データなし」

「その、そうだと思います。数時間前にこの星に下りてきたばかりですから。あの、この惑星にお住まいの方でお間違いないでしょうか……?」

「惑星外部から?」

「あ、はい。そうです」

 

 この時のヒロナの思想が通じてくる。

 二足歩行兵器が稼働する程度に科学技術の進んだ世界なら、惑星外部から知的生命体がやってきても疑問に思わないだろう――と。

 はあ~、頭のいい人はたった一瞬でここまで考えるんだなぁ。

 

「なんの用で?」

「私は移民船に所属している研究者……今は調査員をしています。この惑星に移民船の仲間を呼ぼ寄せることができるかどうか、調査をしに来ました。この惑星に人類がいるのでしたら、余っている土地を我々に一部でも譲っていただけないか、交渉も兼ねております。その、いかがでしょうか? 調査だけでもさせていただきたいのですが……」

「その前にあなたを検査させていただいていいでしょうか? 未知の微生物やウイルスなど持っていたら困るので」

「はい、構いません。当然のことと思います。あの、手を下げてもよろしいですか?」

「はい」

 

 安堵して手を降ろし、振り返る。

 これ、アニメで見た……!!

 ヒロナとミュエルが出会う、アニメ一話の最後のシーンだァァァァァ!!


「あ……あなたは?」

「ミュエル・ユオ。この惑星ほしRE・Earthリ・アースで外の世界からの接触を待っていた。あなたは“おんな”?」

「え?」

「僕の繁殖相手になってくれる?」

「……え……!?」


 ドオオォン、という音にヒロナがも一度振り返る。

 ドッグの中に漆黒の二足歩行兵器が突如降り立った。

 これがロボットアニメ『星鎧せいがいのギア・フィーネ』の代表ロボット、ギア・フィーネシリーズ一号機インクリミネイト。

 シリーズは全部で五機。

 ――この出会いをきっかけに惑星、RE・Earthリ・アースと他の四機のギア・フィーネを賭けた抗争に発展していく。

 

……とりあえず私がヒロナの体を自由にできる時間で体に防弾チョッキを着よう。

 確か撃たれたのは心臓付近だったから。




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