第20話  デトックス茶

 この世界にも茶の木があって、これを栽培する文化は大陸の東から西に向かって流れてきているのは前世の世界と同じ感じ。こちらの世界でも、東から西へと長い航海を経て運ばれて来る最中に、茶葉が発酵してしまった結果、紅茶となったわけ。


 紅茶、緑茶、烏龍茶は同じ茶葉を使用しているんだけど、発酵の違いによって種類が変わって来るわけですね。


 ここイレネウでは年に四回、茶摘みを行うんだけど、今は丁度三番茶の時期であり、詰んだ茶葉は紅茶とは別の方法で加工するつもりでいるわけです。


 緑茶は蒸し→冷却→弱火で炒る→ひたすら揉む→水分を飛ばす→乾燥となる。


 烏龍茶は日干萎凋(布の上に広げて時々撹拌しながら天日干し)→室内萎凋(室内で茶葉を干し、2時間に一回撹拌を繰り返す)→炒り葉(フライパンで焦げないようにバリバリ炒る)→揉捻(10分くらい揉む)→炒り葉(150度で炒る)揉むを5回繰り返す。最後は茶葉がカラカラになるまで炒る。


 自分のお茶を作ろう!という講習会に参加していた私はお茶の作り方というものを覚えているので、前世のチート知識を使ってお茶っ葉業界に風穴を開けてやろうと企んでいるわけですね。


 お茶にはカフェインが含まれている関係から利尿作用があり、老廃物を排出することが出来るわけ。抗菌作用、抗酸化作用があり、免疫力向上の作用も含まれる。これを癒しの力で増やしてもらって、血中に含まれる麻薬成分の除去を促されたらな〜と考えているのです。


「マリー!どうかしら?紅茶の再加工は進んでいる?」

「グレタ様!」


 茶葉会社ロムーナには売れない茶葉が山のようにストックされていたんだけど、特に初期に精製した紅茶は保存状態が悪くて、味や香がグーンと落ちているような状態だったのよ。湿気を含んでいるため、再度、熱風を吹きかけながら撹拌させていくんだけど、この熱風を出すのを風と炎の魔力持ちにさせて、撹拌させるのを癒しの魔法の使い手に任せるようにしたわけですね。


 撹拌させる時に『排出』をイメージしながら癒しの魔法を加えてもらう、イメージしやすい方が魔力を込めやすいというマリーの意見に従って、雑巾を絞る感じで悪いものを絞り落とす。排泄で全てを流すというイメージを込めて貰ったんだけど、この時点ではただの利尿に特化したお茶という形でしかなかったの。


 イレネウ島のみんなは麻薬に悩まされていた為に、麻薬の中毒症状がなくなる紅茶の開発には熱心に取り組んでくれたのよ。魔法はイメージが重要というのはファンタジーあるあるだと思うんだけど・・

「いらないものを流す力、悪きものを洗い流す力」

と、想像してもらいながら魔力を込めればあら不思議。徐々に徐々に、麻薬患者にも効果があるお茶ができるようになったわけ。


 なにしろ廃棄処分寸前のお茶だけは山のようにあったので、島中の麻薬患者を急拵えで作った収容所に集めるようにして、毎日、毎日、浴びるようにお茶を飲ませた上で、紅茶入りのパンとかクッキーを食べさせるようにしたのよ。


緑茶なんかは、血中コレステロールの低下、抗酸化作用、体脂肪低下、リラックス作用に脳細胞の活性化、利尿作用も含まれる。利尿作用を促すことにより、体内に溜まった毒素を排出し、神経伝達物質であるGABA(ギャバ)で脳への酸素供給量を増やし、脳細胞を活性化をする作用があるから、重度の中毒患者には緑茶も飲ませてみたのよね。


そうしたら、廃人がやや廃人になり、やや廃人が雑草取り程度なら出来る人になり、そうして、魔法入りの駄物の緑茶を飲ませて十日後、自分の頭で物事を考え、計算問題が出来るまでに回復したのだった。


 私の持参金を全てぶち込んで、茶葉会社ロムーナを三倍の規模に膨らませて、従業員の住居から強制収容所の建物から、新しい工場まで建てていったわけだけど、絶対にこれ、大儲けしたらすぐに回収出来るでしょう。


「あ!侯爵様!今日は侯爵様もいらっしゃったんですか!」

 まだ六歳だというのに、魔力を込めるのなら一番の遣い手となるマリーは、近くで水を樽に溜めていた妹を呼んでくると、興奮を隠しきれない様子で言い出した。

「私の妹のソフィです。妹の出す魔力入りの水でお茶を作ると、患者さんが良くなるのが早くなるように思えるんです!」


 マリーの父親は、どうやら麻薬の密輸を目撃したか何かで殺されてしまったようで、母と妹を六歳の細腕一つで養っていたみたいなの。ソフィは魔力を使って水を出す力を持っているんだけど、その力を狙われている為に家に閉じこもっているような状態だった為、マリー家族は三人揃って茶葉会社ロムーナの従業員の住居に引越しすることにしたってわけ。


 そうしたら誘拐される恐れもないってことでソフィも働き出して、麻薬患者の回復に一役買うことになったわけで・・

「侯爵様!私たち!役に立っていますか?」

 マリーは必死になって問いかけてくるんだけど、侯爵様は言葉に詰まって声が出ないみたい。


 麻薬の売人の摘発を行っていた侯爵様も一区切りついた様子で、近々、本島に帰る予定でいるのよね。すでにデトックス茶は王宮の方にも運ばれていて、その効果については王宮の専門家が調査をし始めているらしい。


「マリーもソフィも十分に役に立っているわ!」

 私は二人の頭を撫でながら言ったんだけど、侯爵様は、

「二人の父親を殺した犯人を捕まえたんだが、君たちはそいつをその目で見てみたいと思うか?」

 と、酷く物騒なことを言い出した。


 キョトンとした表情を浮かべた二人だけど、マリーの方がソフィの手を握って言い出した。


「見なくてもいいです!」

 マリーははっきりとした言葉で告げたのだった。

「侯爵様がきちんと罰を与えてくれるのなら、それで良いんです!」

「そうか・・」

 侯爵はマリーとソフィに対してそれだけを言うと、黙って外へと出て行ってしまったわけ。


 追いかけて行ったら侯爵は泣いていた、お兄さんが麻薬中毒でお亡くなりになっているので、侯爵様自身、色々と思うところがあるのかもしれない。



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