第19話  おさらい

 我が国には二人の王子様がいるんだけど、第一王子のオスカル殿下が王位を継承することになるだろうと国民一同思っていたわけ。第二王子のカール様はあまり存在感がない王子様だった為、オスカル殿下に何かあった時の為にと大事に育てられていたんですよね。


 その第二王子のカール様の元へ、ポルトゥーナ王国の第八王女であるイザベルデ様が嫁いで来たのは数年前のことになります。王女と言っても八番目ということもあって、カール王子がイザベルデ王女を妻として迎えたとしても、後継者争いのきっかけにはならないだろうと皆が思ったんですね。


 そんな思惑を覆すようにして、王妃様が輿入れしてきたイザベルデ妃を溺愛するようになったんです。それはもう盲目的に、イザベルデ妃が第二王子のカール様こそ次の王に相応しいと言えば、王妃様はそれに追従するように主張する。


 ヴァールベリ王国の王妃様はオルランディ帝国から輿入れして来た皇女様なので、王国としてはちょっと無視できないくらいの力を持っているわけですよ。


「侯爵様は、ジリ貧状態である第一王子のオスカル殿下を支持されているということですか?」

「そうです」

「もしかして、侯爵となったステラン様が無理をしてでも王家からイレネウ島を買ったのは、オスカル殿下個人が持つ軍資金とする為ですか?」

「そうです」

「紅茶をイレネウ島で栽培しようとしているのも」

「イザベルデ妃殿下の思惑通りにさせないためです」

「う〜ん」


 紅茶が欲しい王国の貴族たちは、遥か東に位置する安陽国を麻薬漬けにした上で、侵略戦争を仕掛けて植民地化にしようと企んでいる。その企みを阻止するために、イレネウ島で紅茶を栽培しているのだとは聞いていたけれど・・


「そして、旦那様は奥様と島の市場まで出向いた際に、想像以上に島内に麻薬が蔓延していることに気が付いて調べることにしたのですが、とある商船が、故意にイレネウ島に麻薬が蔓延するように仕向けていたということが分かりまして」


「イレネウ島は交易に向かう船の補給基地の役割もありますものね、色々な国の船が寄港するということは分かっておりますけれど」


「その商船はポルトゥーナ王国に本店を置く商会が所有する船でございまして」

「ポルトゥーナ王国と言えば、イザベルデ妃の祖国ですよね」


 要するに、第一王子派に属する侯爵様を、想像以上にイザベルデ妃は邪魔に思っているということかしら。


「もしかして・・ステラン様のお兄様であるファレス様が麻薬中毒になったのも・・」

「ポルトゥーナ王国が絡んでいるのかもしれません」

「紅茶の一大ブームを巻き起こしたのは、ポルトゥーナ王国から輿入れして来たイザベルデ妃ですよね?」

「さようにございます」


 ええ〜っと、随分前からポルトゥーナ王国はヴァールベリ王国を狙っていたということになるのかしらん。


「ということで、我々は奥様が作り出そうとしている『デトックス茶』に大きな期待を抱いているのです」

「・・・」

「現在、侯爵様は島内で暗躍をするポルトゥーナ人を追っているところでして、どうしても奥様のケアがお座なりとなっているのですが、どうか、どうか、国の存亡をかけた戦いの最中ですので、奥様には旦那様のことを大目に見て頂きたく思うのです」


「いや、大目に見るも何も・・」

 愛する人が他に居るのなら・・

「くれぐれも、離婚だけは思い止まってください!お願いします!」

 深々と頭を下げるウルリックを見下ろした私は思ったよね。


 ちょっと話が重くな〜い?これは、転生して真実の愛を巡るお話とか何とか、そんな流れの話なんじゃないの〜?ってね。


 ちなみに度々出てくる『ミディ』という麻薬だけど、つい最近まで『抗不安薬』として用いられて、一部の貴族たちが愛用していたわけ。


 ちょっと小話になるんだけども・・ロトワ大陸にはベルザとアルメレという、長年仲が悪かった二つの国があったんだけど、小競り合いを続けていたベルザがある時、突然、アルメレを簡単に征服してしまったの。それはあっという間の出来事で、周辺諸国は驚嘆したし、どうやってベルザがアルメレを堕としたのかと興味津々になったんだけど、その攻め落とすきっかけとなったのが『ミディ』という抗不安薬だったんですね。


 戦争中は不安になって不眠になる兵士も多くなるんだけど、その兵士の間で抗不安薬である『ミディ』が出回るようになった。しかもかなり質が悪いものだったようで、多くの中毒患者を発生するきっかけとなったらしい。


 前線の兵士が麻薬の中毒患者になっている間に、王都の貴族たちも揃って麻薬に夢中になっていった。そうして国がガタガタになったところでベルザは攻め込み、あっという間にアルメレを征服した。


 隣国アルメレを麻薬漬けにしたベルザだけど、そのベルザ国内でも麻薬は乱用されるようになっていった。そんな状態のベルザはアルメレを併合して国を大きくしたわけだけど、その数年後にオルランディ帝国に滅ぼされたわけです。


 ベルザから流れてくる麻薬の汚染を嫌った帝国が、国境を接するベルザに奇襲をかけたのは有名な話で、この頃から『ミディ』は多くの国々で禁止薬物とされるようになったんです。


 そんな『ミディ』をポルトゥーナ王国が使用している、これは間違いない事実でしょう!



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