第2話  君を愛する暇はない

 どうやら私の名前はグレタ・ストーメアというらしい。


 これはあれなの?車に轢かれて死んだ後に、異世界へ転生しちゃいましたっていうあれなの?私が小説や漫画で読んだ限りで言えば、皆さんそりゃあ、あっさりと、そうだったわ〜!と前世の自分も、今の自分も思い出してスッキリ!みたいな感じになるのよね。


 ついさっき、白髪のおじいちゃんが運転するタクシーに轢かれたばかりの私としては、未だに心臓がバクバクしているし、頭は激しくヅキヅキしているし、頭がヅキヅキしている?ああ!そうだ!そうだった!


 よろよろとしながら、侯爵家の庭園で行われている披露パーティーへと赴くと、そこで世界が一気に明瞭となりました!そうでした!そうでした!


 私の名前はグレタ・ストーメア、ストーメア子爵家の四人目の子供になります。ストーメア家は子沢山なので、上に兄二人、姉一人、私が来て、その下に弟がいる五人兄妹。


 ちなみに、結婚披露パーティーの最初の時点では、ストーメア子爵家の親族一同も参加していたんですけど、皆さん、パーティーの序盤ですでにお帰りになっています。


 残っているのは新郎のお友達とか、新郎の義妹のお友達とかですね。

 新郎の名前はステラン・ヴァルストロム侯爵で、昨年、お父様が病で他界をした為、爵位を継承しております。

 その新郎の右後ろについているのが、前ヴァルストロム侯爵の後妻であるレベッカ夫人で、新郎が腕にぶら下げているのが連れ子のヘレナ嬢になりますね。


 先ほど、ヘレナ嬢とその取り巻きに囲まれて、

「本当は私がお兄様と結婚するはずだったのよ!それを貴女が横取りしたの!絶対に許さない!」

 と言われながら突き飛ばされて、転がっていた石に頭を打ち付けて芝生の上で転がっていたわけです。


 その最中にテンプレ展開っていうんですかね、前世の記憶を思い出したわけですよ。過去、日本という国に生まれて、会社員として働いていた私は、必要もないのに、憧れの雑誌『ゼ○シィ』を購入してしまう痛い女だったのです。


 前世の記憶が忘れられたままでも『ゼ○シィ』で学んだことは、魂にこびり付いていたんですね。ガーデンパーティー風の披露宴会場には可愛らしい無数の風船が飾り付けられ、シュークリームをタワーにして飴細工で飾りつけたクロカンブッシェがキラキラと輝いています。


 ちなみにこの世界には風船なるものが無かった為、その開発から取り組んでいます。クロカンブッシュ?んなもんこの世界にはない!自分の作ったケーキ(クロカンブッシュ)を結婚式のパーティーでブチ飾りたい!という欲求のまま、前世で学んだ技術をふんだんにアピールしているわ!


「あああああ・・・」

 痛い、痛すぎる、そこかしこに『ゼ○シィ』で学んだ技術が、ふんだんに使われている。ああ、あそこも、そこも、ここも、痛い!痛すぎる!


 ウェディングドレスの胸元を抑えて身悶える私の姿に気が付いたのか、ヴァルストロム侯爵家の家令が慌てた様子でこちらの方へと飛んでくる。


 会場はまるで新郎ステランと新婦ヘレナを祝うために大盛り上がりといった感じ。ちなみにこのクソほど凝った会場の全ての手配は、ストーメア家(私!)がやっているのだ。


「お・・お・・奥様!大丈夫ですか?顔色が悪いように見えます!」

「そりゃあね」


 ついさっき、白髪のおじいさんの運転するタクシーにバーンッと轢かれたところを思い出したからね。そこからの、この『ゼ○シィ』情報満載状態の会場が痛すぎる!私、それほどまでに結婚がしたかったのかしら?


 前世の私!哀れすぎる!


 思わず滂沱の涙が溢れ出てきたため、家令も私の前世の哀れさを察したらしい。

 だってね!だってよ!普通、自分でクロカンブッシュ作る〜?作んねえって!怖い!怖い!結婚式への思い入れが強すぎて恐怖を感じてきちゃったよ!


「お嬢様はもう・・ダメです・・」


 後ろから私を支えたアンネが自分の首を横に振りながら言い出した。


 ダメってなによ!ダメって、そんなにダメだったかな〜?風船?バルーンアートまでやったのは明らかにやり過ぎだった?家令のジョアンさんも、そんな哀れなものを見るような眼差しを向けるのをやめてもらいたい!


「だって!だって!結婚って言ったら女性の憧れでしょう?披露宴には自分の夢をぶち込んじゃうものでしょう?ねえ?そんなに哀れ?そんなに哀れかな?」


 前世の知識を無意識で披露してしまうほどの、夢!希望!が詰まりまくった会場よ!改めて見たら、痛々し過ぎて直視できないんだけど、そんな私を二人が直視しないのは何故かしら?


「こういったわけで、私どもは先に下がらせて頂きます」

「それではお部屋へご案内を」


 家令が家の中へ案内しようとするため、私は慌てて断ったわよ。

「この屋敷の中では、正式な妻はヘレナ様で、私はあくまで金の為に娶ったお飾り妻なんですよね?」

 先ほど、ヘレナ嬢とその取り巻き令嬢たちは、侯爵家での私の立場をきっちりと教えてくれたのだ。


 侯爵家としては、ただただ、裕福なストーメア家から金を引っ張りたかっただけなのだ。だからこそ、一応は子爵家の娘は娶るけど、お飾りとはいえ侯爵家の妻となるのだから有難く思え!というところなのでしょう。


 正直に言って、そういう話は巷に溢れかえっておりますわな。

 私の友人のドリスも、結婚したその日の夜に愛人が登場したとか言っていたもんな〜。


 驚きかたまり、アグアグと口を動かす家令の返答なんか待ってられない。


「まあ、そういうわけなんで、昨日からお借りしている別邸の方を使わせてもらえれば有り難いです」

「そ・・そんな・・」

「いやいや、家令さん、そんなお飾り妻に気を使う必要なんてないですよ。お互い、フランクに行きましょう」


 確か、ヴァルストロム侯爵家は島への投資に失敗したとかで、多額の負債を抱えちゃったんだよね。それをうちが無利子で肩代わりする代わりに、私を嫁に出すし、侯爵家の経済状況を改善するために、子爵家がテコ入れする予定でいたはずなんだけど、おそらく、今回のことでうちは侯爵家とは最低限の付き合いしかしなくなると思う。


 なにしろ、娘が丹精込めて用意したパーティー会場を自分と義妹とでジャックしたものだから、我が家のメンツは丸潰れよ。


 侯爵家と子爵家との家と家が繋がり、これから両家は手を取り合ってお互いに成長していくことになるから、皆様よろしくねアピールが出来なかったんだもん。いくら間に金が挟まった関係とはいえ、失礼にも程があるでしょう?


 家令に挨拶だけしてパーティー会場を出て行こうとすると、後から、新郎が追いかけてきた。この新郎、かなり背が高く、体付きががっしりとしていて、褐色の髪に灰青色の瞳という、色合い的には地味そのものの配色だというのに、無茶苦茶男前なのよねぇ〜。


 ちなみに我がストーメア子爵家は、髪の毛はキンキンの金髪に、鮮やかな碧眼、だというのに、パーツがとにかく地味なのよ。色合いは無茶苦茶派手な色合いなのに、パーツが地味!で、子爵家の四番目の娘!そうでーす!今日、結婚式を挙げるまでは、行き遅れ令嬢の枠に入っていましたー!


 新郎は私の手首を掴むと、眉を顰めながら言い出した。


「君を・・愛する暇がない」

「はあ?」


 それは、新郎が新婦が待つベッドを訪れた際に言う言葉では?だけど、私は淑女なので、

「はあ?あぁああい!オッケーです!」

 と言って、新郎の腕を振り解き、用意された馬車に乗って別邸へと移動スタート!することにしたわけだ。

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