いきなり社会復帰はハードルが高いって!~無職、求職者支援制度を利用せんとす~

コトノハザマ

第1話 背に腹は代えられない

 金が底をつきかけている。

 どう計算しても貯めていた金額では数年しか持たないことはわかっていたから、予想通りとは言える。


 職もない。

 ネットに溢れるブラック企業の事例が可愛く見えるレベルの会社に20代と30代を捧げ、身体と精神を病んで退職したからだ。


 目覚まし時計を気にすることなく寝て、腹が減れば自分で簡単なものを作り、本を読んだり飼い猫と戯れたりする日々を数年続けたおかげで、精神の方は落ち着いた。

 そんなことで、目の前に「このままでは飢え死にしますよ」という分かりやすい問題があり、それをまともに受け止められる程度には心が回復した自分がいるという訳だ。



 だからと言って、「よし、就活するぜ!」とはならない事情がある。


 第一に、前の職場の事がトラウマとまではいかないが、限りなく嫌な思い出となっているので働く事自体に忌避感がある。


 そして第二に、自堕落な出不精の生活を続けた事で、深刻なデブ症に罹患している事だ。退職時から、なんと20%も増量していた。

 単なる増量ではない。筋肉を生贄に脂肪を召喚たしたうえに、である。筋肉は脂肪より重いのだから、実質身体能力の低下と体積の増加は20%どころではない。少し階段を登っただけで息切れがする。


 この二つの事情により、すぐに就職というのはかなり難しい…、いや不可能という気がする。肥満も、欧米ほどではないが自己管理が出来ていない人間だと思われるだろう。

 それに数年間無職だったという事実は、採用する側にとってみればマイナス要素だろうし、自分自身負い目に感じている。何か強みや自信の裏付けになるもの…資格やスキルが欲しい。

 ……いかんどんどんネガティブ思考に陥っていく。



 俺は考えた。

 規則正しい生活になり、幾らかでも金が貰え、スキルや資格も身につけられ、社会とある程度関係が持て、就職して責任ある仕事をするよりもハードルの低い「何か」はないだろうか、と。

 正直、自分でも都合の良い馬鹿な考えだとは思ったが、他にすることも無いのでネットの集合知にすがってみた。


 ……あった。

 いや、本当に希望通りかは分からないが、条件に当てはまるものがあったのだ。


   


 国の金で資格や業務スキルの教育や訓練が受けられ、きちんと出席すれば毎月10万円の給付金と交通費が貰える。参加者は基本求職者で同じ立場だから、上下も無いし人数も学校より少人数だ。


 正直「これだ」と思った。

 意を決して、俺はグー〇ル先生の検索窓に「求職者支援制度」と打ち込んだ。

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