不遇職の召喚術師なので謎の最強冒険者の正体が俺とは誰にも気づかれないようです
闇谷 紅
鎧袖一触
夏真っ盛りだ。あちこちで求愛するセミの声がやたらやかましく、降り注ぐ日差しの下山中を行く俺のテンションを下げる下げる。
「前世も今世もセミがうるさいことは共通だな。割とどうでもいいが」
もっとも、このやかましさにありがたいことがあるとしたら、こちらの気配や音をいくらか誤魔化してくれるというところか。
「この暑い時期に行軍とかな。まぁ、
ついでに言うなら頑丈であるから夏のこのクソ暑ぃ時期でもへばることなく進んでいけるという訳だ。
木々の向こうに褐色で人間の三倍は身長があろうかと言う人影が連なりながら進む姿を俺は目にしていた。
「ホント、城塞の騎士様も兵士諸君も大変だわ。毎年コレを撃退してんだからなぁ」
人間の国へ略奪か侵略か、オーガーどもは定期的に攻め寄せてきて、これを阻む城塞での攻防戦が毎年一度か二度は起きている。
現在のところ国内への被害は出てないが、オーガーどもを阻む城塞は複数あって、一つがオーガーどもの手によって陥落したのが数年前。ただ、人間の国からすると一番遠くにあった城塞であるのと人間用の城塞をオーガーどもがうまく使いこなせていないことで人間の国の方からすると陥落によって生じた被害は想定よりかなり低いモノだったとされる。
「とはいえ落ちた城塞を奪回したいってのもまぁ、そりゃそうだろうなぁ」
城塞の陥落で人間の国からすればその版図がいくらか狭まっているのが現状だ。ただ、進行してくるオーガーの軍勢とその手におちた城塞の奪還を両方やれるほどの兵力も余裕もなくて、結果として俺は今、ここに居た。
「普通に考えりゃ、オーガーの軍勢に単身で突っ込むなんてのは自殺行為だわな」
ただ、単身だからこそセミの合唱もあるが、ともあれオーガーどもは俺の接近に気づいていない。
「始めるか。『リング』」
突き出した指に召喚された指輪が嵌った。前世で遊んだゲームの数々でも見かけたのは稀な装備召喚と言う召喚術の一つ。今世でもこの発想をした者はいなかったのか、使用者は俺だけだ。
「『グラブ』『ハルバード』『ブーツ』『アーマー』『ヘルム』」
続けて立て続けに装備を召喚し、装着してゆく。こう、前世でアニメや特撮でヒーローが変身してるシーンを思い起こさせてテンションが上がるのを感じるもそれに倣ってポーズをとったり名乗る訳にはいかなかった。
「せっかくアイツらが気づいてないんだからな」
不意打ちできる優位を捨て去るとか、とてもとても。俺は口を閉じると無言のままに走り出す。目指すは行軍するオーガーどもの隊列の横っ腹だ。
『グお?』
視界の中で大きくなってきたオーガーの一匹が俺の方を見る。たまたまかもしれないが、目が合った。
「よう」
挨拶代わりにハルバードを横に凪ぐ。斧刃が四つほど命を刈り取った。首から上を失った巨体が派手に血を吹き出しながら倒れた頃には死体を足場にして俺は敵の真っただ中に飛び込んでいた。
「っしゃあああっ!」
飛び込みながら両手に持ち替えたハルバードを振り回す。雑草を刈るようにハルバードに触れたオーガーどもは吹き飛ぶか、両断される。斧刃か穂先へ触れたかどうかが両断されたかされてないかを分けてるんだろうが、いずれにしても経験則でほとんどが戦闘不能だろう。
「っぱやべぇな。これは」
俺は召喚術師。この世界じゃ不遇職とされている職業で、戦いになれば召喚した存在に戦闘を任せ、後ろで支援するような職業だ。則ち、白兵戦の技術なんてモノは持ち合わせず、ハルバード捌きは素人であるはずなのにオーガーどもがまるで相手になってない。
「まぁ、不意打ちもあるんだろうけどな」
ポツリ呟きながら踏み込んでもう一回しすれば、断末魔を上げて数匹以上が死体の仲間入りを果たす。
「っらぁ! どうしたどうしたぁ?!」
ああ、我ながら無双と言ってもおかしくない戦いっぷりに自分が調子に乗っているのがわかる。
『死べぇっ』
ようやく我に返ったらしいオーガーの一匹が襲い掛かってこようとしたところを俺のハルバードに手にしたこん棒ごと腕と首を刎ねられる。
「んー、まぁ、所詮はオーガーだわな。味方がこんだけばっさりやられて普通に向かってくるとか」
脳筋とするかアホとするか。とは言え、ここまで斬った中に上位種だとか指揮官にあたる個体はない。
「とりあえずこの一軍は潰しとくとして、その後どうするかね」
交戦中の相手を滅ぼせるものとみなし、俺は、近辺最強の冒険者とされる俺は引き受けた依頼のことを思い返していた。
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