第7話
「それで、こう…ズバッとスパッとくり抜ける方法がないかと、ずっと考えているのですわ」
「ふふふ…すごく大変そうなのに、エリアはとても楽しそうに話をするのね」
「それは、だって…お継母様もお腹が大きくなって苦しくなっても、嫌だとか逃げたいとかは思わないでしょう?同じような感じだと思いますわ」
「そうねぇ。今はただ、無事に元気に生まれてほしいわ」
「私も、楽しみにしています。弟でも妹でも、どっちでも嬉しいわ」
「えぇ、待っていてね。きっとすぐよ」
「ふふふ。お継母様は昔から優しく微笑んでくださっていたけど、前とはやっぱり少し変わりましたね。もっと、優しくて強くなった気がします。母様もそんな風に微笑んでいたんでしょうか?」
「そう?変わったつもりはないのだけれど。ユリア様はそれはそれは、あなたを愛していたと周りはみんな言っていたわ。もちろん私も、同じくらいあなたを愛しているわよ?」
「わかっていますわ。でも、あまりわたくしの心配は、なさらないでください。お腹の子に全てを注いであげてください。わたくしは、もう充分いただきましたもの」
「それは、きっと無理だと思うわ。でも、大丈夫だっていうのは分かったわ。会いに来てくれて、ありがとう。あ、そうだわ!ねぇ、エリア。ズバッとスパッとのことだけど、魔道具で何とかならないのかしら?一度、王宮魔道具師たちに相談してみたら?最近、すごい子が入ったって、侍女たちが言っていたわ」
「魔道具、ですか?藁にもすがる思いですし、聞いてみますわ。お継母様、ありがとうございます」
にこにこと優しく微笑みながら少し大きくなったお腹をなでるお継母様に別れを告げて、私は一人、王宮魔道具師たちが研究をしている棟に向かった。
「ガラスをくり抜く魔道具ですか…」
う~んと唸ってしまったのは、王宮魔道具師筆頭のサイオン様。
だいぶお年を召しているけれど、国で指折りの頭脳を誇る方だったりする。
「サイオン様、それ、面白そうですね!僕も考えてみていいですか?」
横からひょこっと顔を出したのは、まだ少年と思える年ごろの男の子だった。
「イアン、まぁたお前は首を突っ込みに来る…まぁ、考えてくれ。何せ、私でもパッとは思い付かないことだしな」
「やったね!エリアーデ様、もっと具体的にどんな風にしたいのか教えてください。何か突破口が見つかるかもしれません。さぁ、こちらに。お茶を煎れますよ」
イアン少年に手を引かれて椅子に掛けると、イアン少年はパタパタとお茶を煎れに行ってしまった。
「エリアーデ様、申し訳ありません。最近入ったばかりなのです。最年少で抜擢される程には能力は高いのですが、発想が突飛でなかなか私以外の者には受け入れられていないようでして…悪い子ではないのです。どうか、ご容赦を」
「かまいませんわ。わたくしは正式には王族を抜けた身、王妃様のご厚意でこちらに相談させていただきにきののですもの。きっとその突飛な発想からいいものが出来る気がしますわ」
久々の王女の微笑みで、サイオン様に対応していると、お茶と紙を持ったイアン少年が現れた。
「そうぞ、お口に合うといいんですけど。早速ですけど、教えてください。どんな大きさでどんな薄さのガラスを、どんな風にしたいんですか?汎用性はあるほうがいい?それとも、完全に専門的なもの?魔力量は、どれくらいありますか?意匠には、こだわりがあったりします?」
「イアン、落ち着きなさい。矢継ぎ早ずる。エリアーデ様が、困惑されておられる…」
「いえ、いえ、良いのです。少しびっくりしただけですわ。イアン様、1つずつお願い致しますわ」
「ごめんなさい。面白そうな事には、周りが見えなくなっちゃって…まず、切る前のガラスの大きさと薄さはどれくらいですか?」
1つ答えると、すぐに次の質問が来る。
最年少抜擢なだけはあると、妙な感心をしてしまう。
「聞いた限り、高圧の水で綺麗に切れる気はしますが、くり抜くとなると難易度が上がりますね」
「やはり難しいのでしょうね…コツコツやるしかなさそうですわね…」
「いや、5日、いえ、3日下さい!何とか形にしてみせます。必ず」
「3日で何とかなるものなのですか?3日程なら待てなくは無いですけれど…わかりましたわ。3日ですね。お待ち致します。よろしくお願い致しますわ」
やる気に満ちたイアン少年と、不安感満載のサイオン様の対称的なお顔に別れを告げて、クレメンテ様の待つ家へと帰ってきた。
「と、言う訳です。3日後にまた、行って参ります」
「わかったよ。エリアが羽を伸せて、尚且つ解決の糸口が見えたのならば、良かった」
そう微笑む最愛の人に、同じ笑顔を返して2人で遅めの夕食を終わらせた。
その日は修行も無しにして、久々にゆっくりとした夫婦の時間を設けてくれた事に感謝しかない。
また明日から、頑張らなくてわね。
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