第6話

「クレメンテ様、こんなのはどうでしょう?拙いですが、絵をかいてみました」

「ん、見せて。花瓶?透かし彫りで?あぁ、模造花を挿すのか…なるほど」

「はい、クレメンテ様は緻密な透かし彫りに定評がありますし、最近は銀糸細工も力を入れて手掛けらっしゃる。その花瓶に、教会のモザイクガラスのような色とりどりの花束を、と思ったのですが…」

「花束は、かなり多いね。一つ一つの花びらにモザイクガラスを使うなら、手間がかかりそうだなぁ。花瓶の模様も、僕が一番凝った時のものだね。でも、華やかでいいね。花瓶の隙間に見る青は、布か何かを想像したの?」

「はい、滑らかな光沢のある素材を裏打ちすれば、水を張っているように見えないかと思って…なくてもいいと思うのですが、どちらがいいのか、わからなくなってしまって…」

「うん。裏打ちは、なくてもきれいだし、青は敷物にしようか。エリア、素敵な案をありがとう。僕なりに、手を加えて考えてみるよ」

「はい。作品案が出来たら、見せてくださいね。楽しみにしておきます」


クレメンテ様が描いた透かし彫りの花瓶は、私の拙い絵とは雲泥の差で美しいものだった。

案が完成してからは、先にいただいていた案件も、皆さんへの周知も終わり、本格的に作品作りに打ち込むことにした。

銀鉱石の確保と精銀が私の仕事、クレメンテ様は色ガラスを薄く仕上げてもらう調整。

二人して忙しくしていたけれど、クレメンテ様の友人で新進気鋭の職人として有名なガラス職人をしているガルガンさんと会った日は、楽しそうに話をしてくれるので私もうれしかった。

「エリア、お店は開けていても大丈夫かい?精銀の量もあるし、大変だよね?」

「大丈夫ですよ?皆さんわかってくれていますし、むしろお店を閉めると皆さん心配してしまうので。たまのお喋りや有難い差し入れは、私の気分転換にもなりますから」

「そう?それならばいいけど…僕も、ガルガンとのやり取りは気分転換になっているしね」

「仲良しですものね。結婚祝いに大きな酒樽を持って飛び込んでこられたときは、驚きましたけど」

「いつも、来るときは突然だからね。彼は大猿みたいな見た目で、かなり繊細な仕事をするから話していても楽しいのだけどね。お酒が入ると、大きい声がさらに大きくなるのが困りものだね」

大きな仕事であるにも関わらず、こうして笑いあえることが頼もしくもあり楽しくもあった。



「エリア、また割れちゃったの?なんだか、小さく叫び声が聞こえた気がするんだけど…」

「あ…っとごめんなさい。はい。小さくしてもらったガラス板を、うまく花びらの形にするのが難しいです。発狂しそうなんです。削って作るには、時間がかかるし…何か、上手く型抜きする良い方法はないでしょうか?」

「発狂って…随分、煮詰まっているね…どれだけ割れても、ガルガンに作ってもらうから大丈夫だけど」

「でも、色ガラスは下手な宝石よりお高いですもの、無駄にしたくは無いんです。…折角精銀が目標量できて、クレメンテ様が花瓶の作成に取り掛かれたのに、私がガラスを加工し終わらないと、花束が出来ませんもの…」

「ん~。一度、ちゃんとした息抜きをしようか。そういえば、朝、御母上から手紙が来ていただろう?返事は書いた?」

「はい。お腹が大きくなって動けなる前に、忙しいのは分かっているけど一度顔が見たいとのことでしたわ。お返事は、まだ書いていませんけど」

「いい機会だし、一度お会いしてきたら?ずっと手紙ばかりで、心配されているかもしれないし。エリアの気分転換にもなるだろうしね」

「わかりましたわ。赤ちゃんが生まれると、お継母様も大変でしょうし。明日にでも、お返事を出しますわ」

「うん。それがいいよ、ゆっくり羽を伸ばしておいで」

そんなに心配されるほど、煮詰まった顔をしていたのかしら?と、思わないでもないけれど、クレメンテ様の優しさを無駄にしないようにちゃんとゆっくり羽を伸ばしてこよう。

私が7歳の時に、生みの母様は流行り病で亡くなった。

母様は15歳で国を飛び出してこの国の国王に嫁いでからずっと、自ら炊き出しなどを率先していたから、どこかで感染したのだろうとのことだった。

その優しさ故に、亡くなったときは私だけでなく、国中が悲しみに暮れていた。

母様の喪が明けると、18歳のあどけなさの残るセシリア様が私のお継母様になった。

母様を亡くしたばかりの私を随分気遣ってくれて、傍にいてくれて、いつの間にか大好きになった。

何度か懐妊しては流れてしまって子供は半ば諦めたと言っていたけれど、今回は安定期まで育ってくれて、きっと誰よりも喜んでいるはず。

王族の血云々よりも愛する人に子供を抱かせてあげられないことが悲しいと、泣いていたのを思い出すわ。

赤ちゃんが無事に生まれるまで安心できないとしても、せめて私を心配しなくていいと直接話せたら、少しはお継母様も安心できるかしら。

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