第4話
引越当日になって、お父様とお継母様への挨拶へと向かう。
「お父様、お継母様、長らくお世話になりました。お父様の娘に生まれたこと、幸せでした。お継母様には育ての母として姉として友人として、たくさん甘えさせて頂きました。ありがとうございました」
挨拶と共に今後は滅多にしなくなるだろうカテーシーを、過去最高に綺麗に決めて見せた。
「エリアーデ…うっ…うぅ…」
「エリアーデ、幸せにおなりなさい。愛する人と、好きな仕事と、最高の人生にして見せて頂戴ね」
「お父様、泣かないでください。寂しくなります。お継母様、ありがとうございます」
「エリアーデ、辛くなっらたすぐに帰ってきなさい」
「お父様…ありがとうございます。心に留めておきます。それと、やはり、クレメンテ様とどんなお話をしたかは、教えてもらいないのですか?」
「うむ、男同士の話であるからな。教えることはせん。諦めなさい」
「ふぅ…わかりましたわ。では、これにて、御前を失礼いたします」
私は、必要最低限の荷物だけを大きめのカバンに詰めて、侍従たちは付けずにお城の門を出て、貴族街の端っこの愛する人が待つ、新たな我が家へと足を進めた。
大きな家具類は何も持っていく気はなかったし、豪華なドレスや仰々しい装飾品達は置いてきた。
生活に必要なものは元から最低限揃っているし、本当に着替えと数点の手放せないものだけを持っての輿入れとなった。
人から見れば、王国の姫なのに惨めだと思われるかもしれないが、私にしてみたら最高の門出だ。
家の入り口側に回ると、クレメンテ様が待っていてくれた。
「クレメンテ様!」
「エリアーデ!」
胸に飛び込むように抱き着いて、当たり前に受け止めてくれる。
揃って玄関に足を踏み入れると、何故か感極まって涙が出てしまった。
優しく涙を拭ってくれる指の持ち主に微笑んで、新しく誂えてくれていた服に着替えて、王女エリアーデから、クレメンテの妻で弟子のエリアへと変わった。
「あなた。起きてください。今日から、色々教えてくれる約束です。もう、朝です。ご飯も出来てます~っ!」
「ん~、もう朝?エリア、引っ張りすぎ。服が伸びるよ」
「あなたが起きてくれないからですっ」
「ごめんって。下から君を見上げるのは素敵だけど今は朝だし、降りてくれるかい?」
「もうっ。先に降りてますから、早く来てくださいね」
「わかったよ」
新たな生活を始めて5日、密かに出会った頃から特訓していた料理も洗濯も、この家に合わせての作業に慣れてきた。
新婚ということで、しばらくお休みにしていたお店も今日から開店する。
私の銀細工師の弟子としての修業は、今日から始まるのだ。
食卓に並べた料理を見て、クレメンテ様が嬉しそうに笑うから、きっと大丈夫だと思えることに感謝して、今日も一日が始まる。
「では、まず、一連の流れから説明しようか。今までは楽しい所だけをやって貰ってたからね」
「はい。師匠。よろしくお願い致します」
「ふふふ。僕は基本的に依頼を受けて制作するけど、依頼があっても無くても、どんなものを作るかを考える所から始まる」
「はい」
「使う人の事をなるべく具体的に思い浮かべるんだよ。例えば、まだ可愛い年頃の新婚の若奥様に普段使いして貰える髪飾りにしようと思うとしたら、どんな模様のどんな大きさのどんな形の物にしようってね」
「私くらいの年頃の新婚さんの幸せいっぱいな女性が使うなら、派手過ぎす凝りすぎず花などの意匠で髪をひとまとめに出来るものがいいと思います」
「うん。そうだね。次はそう言うのを、紙に書き起こしていくんだよ。花の模様が大きく1つ入った楕円の髪留め、とかね」
「それを元に次は絵を描くのですね?本棚に沢山あったのを、見せて頂きましたね」
「そう。そして、その次は銀錬成だよ。銀鉱石に魔力を流して不純物を取り除き精銀にする。板状やひも状など、作るものに近い形のほうが楽だね。エリアが錬成魔法を使えるかどうかは、後で確認しよう。使えなくても、誰かにしてもらえば良いから大丈夫。僕もできるしね」
「はいっ。お願いします」
「次は、錬成した精銀に火属性の魔力を流しながら形を作る。熱さないと曲げられないからね。かなりの高温にしないといけないから、適性がなかったら魔道具を使おう。曲げ具合や厚みに気をつけながらね」
「とても大切な工程ですね」
「うん。ここで形がちゃんと思った通りになっておかないと、その後に手間がかかるね」
「そして、やっと彫りだすんですね?」
「そう。描いた絵を見ながら、丁寧に彫っていく。これが1番楽しくて、1番集中力が必要だね」
「はい。楽しいです。私の大好きな工程ですね」
「そうだね。エリアの集中力は、凄いよ。彫り終わったら磨いて、金具なんかの取り付けだね。それで完成だ」
「分かってはいたつもりですが、なかなか大変な事ですよね」
「でも、出来上がっときの感動や達成感は、半端ないでしょ?使う人や依頼人の笑顔が合わさると、尚更だよ。辞められない」
「はい。感動しました。初めての髪飾りを磨き終わったあと、暫くひたすらに眺めていましたもの」
「そうだったね。さあ、では、錬成魔法と適性の鑑定をしてみようか」
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