第36話人体実験記録ノート
「よし決めた」
「決めたって何を?」
「ちょっと調べてこようと思って」
「何を調べるつもりなのっていうかどこに行くつもりなの?」
「大丈夫ですよ宗教の建物に行ってくるだけなんで」
「そうじゃなくて私が聞いてるのはその宗教の建物まで行って何をするつもりなのってこと」
「それは…」
一瞬なんとか理由をでっち上げごまかそうとも思ったが無月相手にそれは通じないと思いすぐに諦める。
「今まで色々な可能性いろいろなパターンで考えてましたけど明らかに足りないピースがあるんです」
「明らかに足りないピースって何?」
「30年前の爆発事故が起こった理由に関する情報です」
「30年前の事件の情報なんてそんな簡単にわかるわけが」
「せいぜい30年前の事件についてわかることがあるとすれば新聞で出てる情報ぐらいじゃない」
「これは俺の単なる推測というより妄想でしかありませんがもしあの宗教が本当に人体実験をしていたんだとすれば」
「今もなおその実験を続けているんだとすればその人体実験をしている人たちを監禁する場所がどこかにあるはずです」
「こうして改めて聞いてみると嘘みたいな話ね」
「ええ、自分でもそう思います」
「でもあなたが行くって言うなら私も一緒に行くわ」
「さすがに今回は危険すぎます」
俺が考えてることを実際にあの宗教が隠しているんだとしたら間違いなくただでは帰ってこれない。
「死ぬ前にせめて最後自分の目であの宗教が何をするつもりなのかお父さんが何をしてたのかしっかりと目に焼き付けておきたいの!」
「分かりました!」
俺は言葉に頷き宗教の建物へと向かう。
何食わぬ顔でその建物の中へと入る。
俺の考えてる推測が正しいとすれば監禁してる部屋は目につかないところにあるはず。
特に何の情報があるわけでもないがとにかく探してみるしかないか。
「とにかく人が普段目に止めないようなところを重点的に探してみましょう」
俺は周りの人達になるべく聞こえないように声を潜める。
「でもそんなにやばい実験をしてるんだったらこの建物の中にその場所があるとは思えないんだけど」
「ええ、でも情報をつかめていない以上ここの中を調べないわけにもいきません」
なるべく何食わぬ顔で違和感のないように普通を装い中を見て回る。
中を見て回っていると、目の前に関係者以外立ち入り禁止と書かれた部屋を見つけた。
「あそこに何かありそうじゃないですか」
「あんなところに隠してるとも思えないけど」
「とにかく今なら誰も周りに人いませんしどうにかしてこの扉を開けましょう、て言いたいとこなんですけどこの扉を開けられるようなものを何も持ってきてないんですよね」
正確に言うなら何か道具を持参してこようとは思ったのだがあまり大きいものだと下手に目立ってしまうと思い持って来れなかった。
だからと言ってこのまま立ち入り禁止の扉の前に突っ立っているわけにもいかない。
「私に任せて」
そう言ってうちポケットから取り出したのは針金をピッキングに見立たものだった。
「いつの間にそんなものをっていうかそんなものでどうにかなるんですか」
「どうなるかはわかんないけどとにかくやってみるしかないでしょ」
「でもさすがにそんなもので開くわけが…」
「あ!開いた」
「嘘!」
「とりあえず中に入ってみましょう」
周りの人たちになるべく聞こえないように慎重にその重たい扉を閉める。
扉を閉めると周りは真っ暗で何も見えない。
2人で持っているスマホのライト機能を使って周りを照らす。
ちょうどそのライトで寺下のが誰かの顔で俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
2人でその少し先を照らしてみるとたくさんの人がベッドの上に横になっていることがわかる。
「もしかして…この人たち全員…死んでる」
俺は呟くように言葉を漏らす。
そうなんじゃないかと想像してはいたが予想以上の人数がベッドの上に横になっていた。
「ねえちょっとこれ見て」
叫び声をあげてもおかしくないこの状況で無月は特に変わらず平坦な口調のままだ。
指を刺されたベッドに寝ているおじさんの体を見てみると右腕の部分だけが綺麗に切断されている。
血などは一切出ていない。
その隣の人の体を見てみると逆に左腕がない。
そのまた隣の人の体を見てみると左足だけがない。
またまた隣の人を見てみると反対の足がない。
その隣の人に至っては体ではなく頭の部分が丸く切り取られている。
一番奥の方に行ってみると小さな神棚があり、その神棚の上には1冊のノートが置かれていた。
「とりあえずこれを持って早くここから出た方が良さそうですね」
ここにずっといてはまずいと体が危険信号を発している。
扉を開け周りに誰もいないことを確認し足早にその建物から去る。
無事に家に帰ってくることができテーブルの上にあの場所から持って帰ってきたノートを置く。
「中身を読んでみましょうか」
「ちょっと待ってください中身を読むんだったら勇輝もいた方がいいと思います」
俺が巻き込んでしまったとはいえ当事者であることに変わりはない。
電話をかけ新しいことが分かったと言うと今日の夜にそっちに行くと言って電話を切る。
「それで新しい情報が分かったって何なんだ?」
「全員集まってから情報の確認をしようと思ってまだ見てないんだ」
「これが新しい情報ってやつか?」
目の前のテーブルの上に置かれているノートを見ながら言う。
「ああ」
短く言葉を返すと勇輝がノートを手に取り中身を読み上げる。
「いよいよこの時が来た人類の中で一番優れた人間を作るこの時が!」
勇輝は無言で1枚ページをめくる。
「なんだこれ!」
すると驚きの声を上げる。
次のページに書かれていたのは人間の人体図の絵だ。
それぞれの体の部位が書かれている横にはこんなことが書かれていた。
「右腕プロの野球スポーツ選手」
「左腕柔道黒 帯プロ」
「左足徒競走プロ」
「右足陸上選手プロ」
「脳IQ130」
「なんだよ…これ」
勇輝のたいから驚きのあまり冷や汗が出てきてしまっている…
「横のページにも何か書いてある」
無月がページを指さす。
「
「何なんだよこれ本当に何なんだこれを作ったやつらは何をしたいんだ!」
勇輝は震えている指先で最後のページをめくる。
最後のページにはこう書かれていた。
「フランケンシュタイン…計画指導」
「本当に何なんだよこれ!」
さっきから何度も口にしているその言葉がどんどんと熱を帯びていく。
「俺にもわからない」
ゆっくりと首を横に振る。
分かったことがあるとすれば俺が考えていたよりもさらにヤバい人体実験をしていたということぐらい。
「でも何のためにあの宗教を作ったのか理由がこれではっきりした」
人体実験を安全に行うためにあの場所を作ったんだ。
このノートのページを見て今分かったがおそらくこのノートが作られたのはだいぶ前でページが汚れてしまっている。
後は無月の父親のことについて調べることができれば今回の俺が始めたこの件に決着がつく。
俺はあの宗教が人体実験をしていまいがしていようがどっちでもいい。
もし本当に人体実験をしていたとしても警察に報告するつもりはない。
無月のお父さんとお母さんがどうして宗教にはまったのかそれを調べる、ただそれだけだ。
改めてそう決意する。
最初はこの人体実験も無月の両親が宗教にはまったことと関係があるのかと考えていたがどうやら直接的には関係がなさそうではある。
だが念のため気にしておいた方が良さそうではあるな。
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