第34話希望の光
「こんな時間にどうしたんだいつもだったら普通に仕事してる時間のはずだろ?」
「確か前にもこんな似たようなことなかったか?」
その時は2時間分の有給を使っていたので問題はなかったが今回も2時間分の有給を取っているんだろうか。
「こうしてわざわざ家に来て話さなきゃいけないのは誰のせいだよ!」
これ以上この話題について掘り下げるとめんどくさいことになりそうだったのでやめておく。
「それで家に一体何しにきたんだ?」
まさかついこの前新しい情報をつかんだばかりで再び新しい情報を掴んできたというわけではないだろう、と言いたいところではあるがそうとも言い切れない。
実際今回の件の勇輝の情報収集能力を見ても明らかだがとにかく行動力があり早い。
まさにその行動力の速さは新聞記者に向いている。
本人から言わせればそのスキル自体は別に新聞記者になってから身につけたものではなく学生の時に鍛え上げたものだという。
まあ確かにそう言われてみれば高校の時まで警察官になることを夢見ていたのだから日々体力作りに励んでいてもおかしくはない。
「ちょうど近くまで来てて休憩時間がまだ少しあまってたから寄っていこうと思ってな」
俺は聞きながらインスタントコーヒーを入れたカップの中にポットでお湯を注いでいく。
「砂糖いくつぐらい入れる?」
「いやそのままのブラックでいい」
言われた通りカップの中には何も入れずテーブルの上に置く。
「それで家に来た本当の理由は何なんだ俺と雑談推したかったわけでもないだろう」
俺は答えがわかっていながら尋ねる。
「この前美術館で話を聞いてきたっていう宗教のトップのやつがどういうやつだったのか聞いておこうと思ってな」
「そうだな別に喋り方とか雰囲気とかは普通の人となんら変わりはなかったけど」
「変わった部分があるとすれば見た目」
「見た目がどんな風に変わってたんだ?」
「修道服を着てた」
もしかしたら美術館に飾ってある絵の干渉が終わったらすぐに宗教に戻るつもりで来ていただけなのかもしれない。
「その修道服ってその団体全体のイメージカラーみたいな感じなのか?」
「さあそこまではわからない」
「後他に何か気になったこととかはないのか?」
「後他に気になったことは…」
言われ頭の中にある記憶を探る…
「そういえばその人の飲み物の飲み方が少し違和感があったな」
「飲み物の飲み方?」
俺が言っていることがうまく理解できないらしい。
「美術館でずっと話すのは作品を見てる人の邪魔になるから近くのカフェで話を聞くことになったんだ」
「カフェで俺がその人の分のコーヒーを頼むことになって」
「その人がコーヒーを口に運んで行くのを見た時なぜか不思議な違和感を感じたんだ」
「不思議な違和感って例えばどんな?」
「何と言うかうまく表現できないんだけど普通にしてたら気づかないような」
「やっぱりうまく説明できないな」
うまく説明しようと思っても俺が感じたその違和感に強い確信を持っているわけではないので正しかったのかどうか迷ってしまう。
「そうかうまく表現できないか」
「とりあえず俺は引き続き宗教団体の情報について余裕があれば調べてみる」
「もうそろそろ仕事の方に戻らなきゃいけないから行くわ」
勇輝が家を出て数分後スーパーの袋を持った無月が帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
いつもと変わらない口調で言って慣れた手付きでスーパーの袋から食材を取り出し冷蔵庫に入れていく。
「さっきまで勇輝が来てたんですけど入れ違いでしたね」
「そうみたいね」
「なんでわかったんですか?」
「テーブルにコップが2つ置いてあるんだから誰かが来てたなんて予想は誰でもできるでしょう」
「あなたが頭の中のエアー友達と話しながら実質1人でお茶をしてたって言うなら話が変わってくるけど」
「今の俺はそんな精神状態じゃないんで大丈夫です」
「もしあなたが本当にそんな精神状態だったら腕利きの精神科の先生を紹介してあげるわ」
「はぁ…」
「そんなため息ついてると幸せが逃げますよ」
若干棒読みの口調でそんな使い古された言葉を口にする。
「これから自殺をしようとしてる人間がそんなこと気にしたって仕方ないでしょ」
「俺が今の件を解決するまでにはまだ少し時間がかかりそうなんでその願いを実行してもらうのは少し先になりそうですけど」
「無月さんが本当に自殺をするまでの少しの間何かやりたいことを考えておいてもいいんじゃないですか」
「そのぐらいのことをしてもバチは当たらないでしょ」
「せっかくですから短い間だけまだこの世界にいるうちに何か趣味に没頭するっていうのもいいかもしれませんよ」
「何か趣味を始めるなんていう行動を起こすのは希望がある人間がする行動」
「もっと具体的に言うと趣味を探そうとする人間は大きく分けて2種類のパターンに分かれる」
いきなり何かの説明が始まった。
「時間にゆとりができてその持て余した時間で何かやりたいっていうパターン」
「もう一つはストレスを解消するために趣味を見つけようとするパターン」
「例えばポーカースロットパチンコ競馬競輪競艇いろいろあるけど」
「なんでストレスからくる趣味の時だけそんなにいっぱい出てくるんですか!」
本人にその気があるのかどうなのかわからないがなんとなく悪意を感じる。
「でも知識がだいぶ偏ってる部分があるから何とも言えないけど」
付け加えるように言う。
「話してたらもうだいぶ時間が経ってたのね今夜ご飯作るからちょっと待ってて」
言われた通りしばらくご飯ができるのを待っていると、味噌汁とご飯と魚が運ばれてきた。
「夜ご飯っていうよりお店とかで朝早くにやってる定食みたいですね」
「他の料理も考えたんだけどあんまり多いと食べきれないかなと思ってこのぐらいにしておいたの」
「さっきの話の続きだけどこの世の中に娯楽がたくさん増えて、それに総じて色々な趣味も増えたけど」
「純粋な気持ちで心にゆとりを持った状態で楽しんでる人ってどのぐらいいるのかしらね」
「さあそれはどうなんでしょうね」
話しながら色々と思い返していると自分は趣味と言える趣味を持っていないことに気づく。
「どうかしたの?」
「今こうして話しながら色々と思い出してたんですけど俺って趣味らしい趣味がないなと思って」
「あなたって人間観察が趣味じゃなかったの?」
「人間観察は趣味というよりクセなんですよ」
そんな話をしながらご飯を食べ終え寝る支度をする。
無月に布団を引いてもらい布団の中に入る。
電気を消しますよと俺が一声かけ電気を消す。
それからしばらくしてなかなか寝付けないのか俺に声をかけてくる。
「ねえ何であなたはあの時私に手を差し伸べたの?」
「俺は手を差し伸べたりなんてしてませんよ」
「ただ無月さんがあの時何を思ってあの行動をとったのか少し不思議に思っただけです」
「何それ…」
「俺はただ人間観察が好きなだけです」
俺は至って真面目な口調で言う。
「 ねえあなたは私が死んだら 楽しんでくれる?」
呟くような小さな声で訪ね。
「それはやっぱり長いこと一緒にいるわけじゃないですけどもう多分赤の他にはないので 多少はもやもやした気持ちを抱くんじゃないですかね」
まるで他人ごとのような口調言葉を口にする。
「まあでも自分がこの世界にもう言いたくないって思ってるんだったらそれ以上この世界で過ごしていても ただの時刻と変わりませんし」
「何か罪を犯したんだったら償わなきゃいけませんけど無月さんはそうじゃないでしょう」
「あの時あなたがいなかったら私も罪を犯してたんだけど」
「まあ結局俺が立て替ておいたんで罪にはなりませんよ」
それから少しして眠りについた。
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