第25話児相

この日は作ってもらった野菜炒めを食べ眠りについた。



目が覚め横に顔を向けてみると置いておいたデジタル時計にはいつもより1時間早い4時半と表示されていた。


さすがにこんな時間に起きてしまったら横で寝ている無月に迷惑なので布団の中で大人しくしておく。


それから眠りにつこうと思ってもなかなか寝付けなかったのでその時間を使って今までの状況を整理することにした。



「まず一つ目に気になるのが色々宗教のことについて調べ始めてから未だにわかっていないどういう宗教だったのかという点だ」


「今までの情報を踏まえた上で考えると前から予想はしていたが猟奇的な儀式あるいは研究をしていると見て間違いはないだろう」


とは言ってもまだはっきりとした証拠が揃っていない以上他の可能性も考えておく必要はある。


「もし研究をしているとしても何のためにその研究をしているのかが今も不明のままだ」


「なんだこの違和感みたいなものは…」


こうして今まで集めた情報を整理してみれば何かわかるかと思っていたがそんなことはない。


実際はその全くの逆で考えれば考えるほど何かが間違っていると訴えかけてくるような感覚が強くなっていく。


それからしばらくして再びデジタル時計の方に顔を向けてみるといつも通りの時間になっていた。


俺がゆっくりと静かに体を起こしたと同時に無月がゆっくりと目を覚ます。


今更ながら考えを口に出していたことに気がつく。


「あなた相変わらず起きるの早いわね」


同じようにゆっくりと体を起こしまだ若干眠気さを含んだ口調で言う。


「すいません起こしましたかね」


「別にあなたのせいじゃないわ私が起きるタイミングがかぶっただけ」


それから車椅子に乗せてもらい、いつものテーブルにつく。


「昨日の残りで悪いけど食べてくれる?」


無月は昨日の夜ご飯のあまりの野菜炒めを出してくれる。


「ありがとうございます」


言いながらスプーンですくい口に運ぶ。


食べながらさっきの続きを考える。


今度はちゃんと口には出さず考えを巡らせる。


そもそも小学校の時から家の中が大変だったなら何で周りの人たこちは助けようとしなかったんだ。


ある程度の補助は周りがしてくれていたのかもしれないが、本人に聞いたことがないのでわからない。


そもそもその時担任だった学校の先生とかはどこまでこのことを知ってるんだ?


小学校の頃から家の家事を全部1人で引き受けもうその時感情が壊れていたんだとしたらもうどうでもよくなって周りの大人の人に話していない可能性もある。


だがいくら話を聞いていないからとはいえ学校での態度や雰囲気が変わっていたとか少なからず変化はあったはず。


1人ぐらいは変化に気づいてもおかしくないだろう。

……。



周りの大人の人?


無月は10歳くらいの時お母さんとお父さんが出会った時の馴れ初めを誰かから聞いたと言った。


少なからずお父さんとお母さんと面識がある人物でなおかつ無月がその時ある程度信頼を置いていた人物なら服の着こなし方やしゃべる口調から小さな変化を感じ取れたとしてもおかしくはない。


児相じそうやそういった団体に匿名で電話をし家に入ってもらうということもできたはずだ。


それとも10歳の時はそれほど見た目から見てそこまでではないと判断できるぐらいの状態だったのか?


俺がそんなことを考えていると肩をゆすられハッと我に帰る。


「大丈夫さっきから手が止まってるけど?」


言われ自分が手に持っているスプーンの方に視線を落とす。


「ああ、すいません少し考え事してて」


「ところで無月さん、この前一緒に行った前にお父さんお母さんと住んでた家にもう1回言ってみてもいいですか?」


「私は別に構わないけどもうあそこに行っても何も手がかりはないと思う」


「いやただ個人的に少し気になるところがあって」


それから朝ごはんを全て食べ支度をし横浜行きの電車に乗り目的の場所へ向かう。


「いつ見ても大きな家ですね」


「私1人で毎日この家を掃除するのは大変だった」


「この家の中を毎日ですか!」


「ええそう」


「最初はよく使う部屋だけを掃除してたんだけど他の部屋の場所でよくわからない虫が湧いてきたりするから結局全部掃除するようになって」


「それであなたは何を調べたいの?」


その言葉には何も答えず車椅子を漕いで神様の置物が置かれている仏壇に近づく。


「特にこの置物に何かが仕掛けられてるとかはなさそうです」


手に手袋をはめていたら完全にプロの鑑定しか何かだ。


一度来た時に見た大きいものではあるが 念のため確認しておく。


「刑事ドラマじゃないんだからそんな盗聴器とかが仕掛けられてるわけないでしょ」


「まさかそんなことを調べるためにこんなところまで来たの?」


呆れたような口調で言う。


「ここの近くに知り合いが住んでたりします?」


「私の知り合いってこと?」


「はい」


短く返事を返す。


「知り合いって言っていいのかわかんないけど昔から知ってる近所の人ならいるけど?」


「その人は今どこに?」


「この時間帯だったら近くの公園の花壇に水やりをしてるはずだけど」


「その公園まで案内してくれませんか?」


俺の言葉には何も答えず車椅子をおしてその場所へ連れて行ってくれる。


公園の中に入ってみると確かに花壇に水やりをしている60後半ぐらいの細身のおばあちゃんがいた。


「ここまで連れてきてもらったお礼にこれで何か近くのカフェで好きなもの頼んでください」


持っていた財布から1000円を取り出し渡す。


「それじゃあ私近くのカフェでモーニングを楽しんでくるわね」


俺の席を外してほしいという意図を汲み取ってくれたのかそう言って背中を向けどこかに向かっていく。


「あなたあの子の友達かしら?」


今さっきまで花壇に水やりをしていたおばあちゃんが優しい口調で声をかけてくる。


俺は尋ねられ言葉に迷ってしまう。


友達かどうかと尋ねられればそうではない、かと言って全くの赤の他人かと言われればそれも違う。


少し言葉に迷った末に俺は…


「知り合いです」


と答えた。


「少し尋ねたいことがあるんですが今お時間よろしいでしょうか?」


「こんな私に尋ねたいことなんて一体どんなことなのかしら?」


「無月さんの家のことについて少しお聞きしたいことがありまして」


言うとついさっきまでの優しそうで柔らかい雰囲気からは一変し真剣な表情へと変わる。


どうやら今の一言で全てを察してくれたようだ。


「そうねさすがに足の踏み場もないゴミ屋敷ってほどじゃなかったけど」


「あれはどう考えても虐待の部類に入る生活だったわね」


「今の言葉で言うとネグレクトって言った方が分かりやすいかしら」


「あの子が小さい頃近所で児相の人に相談して引き取ってもらった方がいいんじゃないかっていう話が出たりしてて」


家の近所の人たちの中で話に上がるぐらいには目に見えて家の中が悲惨になっていたということか。


「あの子のお父さんとお母さんが寝てる間にここの公園にこっそり連れ出してきてその話をしたら私のことは心配しなくていいって言ったから私たちもできるだけのサポートはしてたけど動くに動けなくて」


今の話だけでは実際にどうやって連れ出したのかわからないが 父さんとお母さんは本当に起きなかったのか?


今更そんなことを考えても仕方がないとは分かっているものの考えてしまう。


「あの子は周りの大人の人たちに気を使わせないようにそう言ったのかもしれないけど」


「あの時気にかけてあげれば良かったもっと色々相談に乗ってあげればよかったって思うの」


少し涙ぐんだような口調で言いながらその時の怒りをぶつけるように自分の膝を軽く叩く。

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