第16話共済売り込み
朝ちょうど俺が目を覚ましたところで横に置いておいた自分のスマホが着信音を鳴らす。
スマホの画面に表示された名前を見てみると勇輝と表示されていた。
「もしもし…」
俺のすぐ横で寝ている無月に気を使い少しばかり声を潜める。
「どうしたんだこんな朝早くに電話してくるなんて」
「昨日の夜話した宗教メンバーの1人には俺がコンタクトを取っておく」
「コンタクトを取って送ってその人を探す当てはあるのか?」
「直接会うことはできないが宗教メンバーの誰かに時間を作ってくれるように伝えてもらうようにするよ」
「宗教メンバーじゃないやつの話をそんなに聞いてくれるもんなのか?」
「そんなことを言ったらお前たち2人だって前に宗教のメンバーと喋ってたじゃないか」
「まあそれはそうだが」
「それからお前に先に行っておくもしそいつと話すようなことになった場合は今度こそ俺も一緒についていく」
「だからお前たち2人だけでそいつに会おうとするんじゃねえぞ」
「それじゃあ俺はこの後すぐ仕事だからそういうことで」
言って一方的に電話を切った。
電話での話が終わり少ししたところですぐ隣で寝ていた無月がゆっくりと体を起こす。
起きたばかりにしてはそんなに眠たそうな顔をしていない。
いつもそんなに眠たさを顔に出す方ではないが今日は特に顔に出していない。
もしかしたら少し前から起きていて俺の電話の邪魔にならないように静かに横になってくれていたのかもしれない。
「すいません起こしちゃいましたかね?」
「大丈夫今起きるところだから」
「それで何だって」
誰からの電話だと尋ねてこないあたりやはり少し前から起きていて気を使って黙っておいてくれたのだろう。
「勇輝からの電話です」
「子供2人だけで下手に動こうとするなよっていう忠告の電話でした」
「ふーん…」
眠たくてあくびをしているだけなのかただ興味がないだけなのかどっちともつかない。
おそらく後者だろう。
「今すぐ朝ご飯作るからちょっと待ってて」
いつも通りキッチンの前に立ち眠気さなど一切感じさせない慣れた手つきで朝ご飯の支度をする。
昨日買ってきてくれた食パンの袋から1枚のパンを取り出しオーブントースターでパンを焼く。
焼いたパンに少し小さめのナイフでバターを塗ってお皿の上に乗せる。
「先にパンでも食べてて」
言ってパンが乗ったお皿をテーブルの上に置く。
「もしあれだったら今日これだけでも大丈夫です」
「そんなに大変じゃないしすぐ終わらせるから」
そう言って再び包丁を持ち慣れた手付きで野菜を切っていく。
そのあっという間にできたサラダをお皿に乗せテーブルの上に置く。
「ありがとうございます、無月さんは何も食べなくていいんですか?」
「私はこれ一つでいい」
言って1つの皿をテーブルに置き上に袋から取り出したパンを載せる。
「そういえば伝え忘れてたんですけど勇輝が宗教のトップと話ができるようにしてくれるそうです」
「さっきの電話の内容ってそれだったのね」
「でもまともに取り合ってくれるのかしら」
「どういう意味ですか?」
「最初に話したあの宗教のトップの人は宗教のことについて細かいことは何も教えてくれなかった」
「あの宗教が人体実験なんかをしてるんだったらもし間違ったとしてもいいはしないでしょう」
俺は冷静な口調で言葉を返す。
「今は連絡が来るのを待ってるしかないですね」
「でも何でそれだったら私たちにあの宗教がやばいことをしてるかもなんて言う情報を教えてくれたのかしら?」
「あの人は見た目からしてもう宗教とは関係ない感じでしたからね」
それからだいたい午前6時を回った頃俺の横に置いてあるスマホが着信音を鳴らす。
「今から来てくれるか?」
「ああ、大丈夫だすぐそっちに向かう場所を教えてくれ!」
それから教えてもらった場所へ向かう。
その待ち合わせ場所には勇輝が先に来ていた。
「待ち合わせの相手は?」
「まだ来てない多分もう少ししたら来るとは思うが」
「すいません遅れました」
その待ち合わせ場所に現れた男は前に勇輝に見せてもらった4枚の写真には写っていない人だ。
「あなたが今回話を聞かせてくれると言っていた方ですか?」
俺は丁寧な口調でそう言いながらも疑問を含んだ口調で言う。
「いいえ本当だったら別の方が来る予定だったんですがその方が外せない用事ができたと言って私が代理人としてここに来ることになったんです」
「申し訳ありませんこんなことになってしまって」
その男の服装は前に話をした男とは違い修道服のようなものは来ておらずいたって普通の格好だ。
「そんなに気にしないでくださいいくつかの話を聞かせていただければ十分なので」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「こんなところでずっと立って話すのもなんですしどこかお店に入って話しましょうか」
こんなところでずっと話をしていたら通行人の邪魔になるのでとりあえず俺たちは近くのお店に入った。
店員に席を案内してもらい席に着く。
無月と勇輝は俺の両隣の席にそれぞれ座ってもらう。
勇輝にメインで話をしてもらった場合相手に知らない間に威圧感を与えかねないのでメインは俺が喋ることになる。
まあ今回は保護者として悪魔で来てもらっているだけなので考えすぎかもしれないが向こうが、何もしてこない限り出る幕はないだろう。
「何か頼みますか」
「そうですね…それではコーヒーを1つ」
男はこういった話し合いの席にあまり慣れていないのか少し緊張しているようでもあった。
それから俺の分と合わせコーヒーを2つ頼みしばらく待つと頼んでいたコーヒーが届く。
「お待たせしましたブラックコーヒー2つになります」
「ありがとうございます」
「…さて早速話の本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「僕に答えられることであれば構いません」
どこか不安を宿した口調でそう言ってくる。
「まず1つ目の質問として仕事というか普段の宗教団体の活動として何をやっているんでしょうか?」
俺が尋ねると薄いPCを入れるバックのようなものの中からいくつかのそれぞれ別の種類のノートを取り出す。
「これは?」
俺が疑問を含んだ口調で尋ねると興味を持ったと勘違いしたのか声のトーンを今までよりワントーン上げ少し早口でこう言ってくる。
「このノートは全部で3つあるのですがそれぞれ読むと違う効果を得ることができます!」
「例えばこのノートを読むと体の悪い部分が治ります!」
横目で俺の足の部分を見ながら言う。
それから俺は適度に相槌を打ち話を聞いているふりをするが右から左へ聞き流す
「そうなんですかその商品を買うかどうかはしばらく悩ませていただくとしてひとまず気になっていることがいくつかあるので引き続き質問させて頂いてよろしいでしょうか?」
丁寧な口調でそう言うとあっさりと見せてきていたノートをコンパクトなサイズのカバンの中にしまう。
宗教の怪しい道具を売ろうとしている男がそんなに推しが弱くていいのかと逆に心配になったが関係ない話なのでそこはスルーしておこう。
「それであなたがそのノートを売りに行っている間言い方は悪いかもしれませんけど上の立場の方々は何をしているんですか?」
「それが上の方々が何をしているのか一切教えてくれないんですよ」
「それでは最後の質問なんですが」
「何でしょう?」
「失礼なことだと承知の上で聞かせていただきますが上の方々が何か狂気じみた犯罪行為に手を染めていたりはしませんか?」
ちょうど男がコーヒーを飲もうとしていたタイミングと重なり驚きコーヒーを吹き出してしまう。
「何を言うんですかいきなり!」
驚きのあまりむせ込む。
「すいませんいきなり変な質問をしてしまって」
「そんなことあるわけないじゃないですかもうこれ以上質問がないなら僕は帰りますね」
言ってそそくさと自分の荷物をまとめ店を出て行く。
「無月さんは先に帰っててもらっていいですか?」
「俺はやらなきゃいけないことができたんで!」
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