第11話プレゼント
「さてどこに行きましょうかね?」
「どこに行くってこのまま家に帰るんじゃないの?」
「まあそれでもいいんですけどせっかくなんで2人でどっか行きませんか?」
「どっかってどこ?」
特にどこに行きたいというわけでもなかったのでそう言葉を返され少し悩んでしまう。
普段あまり外に出ないからこういう時どういうところに行ったらいいか全くわからない。
「そうですね…」
「この辺の近くに確かショッピングモールがありましたよね、試しにそこに行ってみますか?」
「私は別にどこでも構わないけど」
いつも通りの平坦な口調で言葉を返してくる。
そのショッピングモールには思っていたよりも早く着いた。
「ショッピングモールの中ってこんな風になってるんだ」
不思議そうなものを見るような目でそう言いながら辺り全体を見回す。
「小さい時とかに誰かと一緒に来たりはしなかったんですか?」
「小さい頃は家にお留守番してる時の方が多かった」
「両親2人が私を家に置いて遊びに行くなんてことは日常茶飯事だった」
寂しそうな表情を浮かべどこか遠い目をしながらそんなことを言う。
「ずっと気になっていたことがあるんですけど?」
「何?」
「なんであの時わざわざ数ある商品の中から焼きプリンを盗もうと思ったんですか?」
「こういうことってあんまりいっちゃいけないことだと思うんですけどもっといいものがありましたよねおそらく」
「私焼きプリンが特別好き勝手言われると別にそこまででもないんだけど」
「じゃあ何でわざわざあの色々並んでる中から焼きプリンを選んで盗もうと思ったんですか?」
「別に他意はないけど、焼きプリンを盗もうと思ったのはたまたまで盗めれば何でも良かった」
「そうね分かりやすく言うなら思春期の女の子のささやかな社会に対する反抗ってところかしらね」
「まああの時は最後の晩餐を選んでるつもりではあったけど」
「最後の晩餐にしては随分と質素なものを選びましたね」
「まぁ、あの場所に特に食べたいものがあるわけでもなかったし」
「かと言ってわざわざ別のスーパーまではしごして買いに行くつもりもなかったから」
「まぁこれから死のうとしてる人がわざわざ別の場所まで行って晩餐を探しに行くなんて行動を起こせるんだったら随分と心の余裕がありますしね」
俺がそう言葉を返したところで小さくため息をつき話を変えるようにこう言った。
「さてこれからどうしましょうかどこか行きたい場所とかありますか?」
さっきと似たようなことを言う。
「私こういう場所にそもそもあまり来たことがないから中に何があるのかわかんない」
「分かりましたじゃあとにかく時間かけてブラブラと適当に見て回りましょうか」
「話変わるんですけど無月さんはあの男の人が言ってたことについてどう思います」
「うーん…あなたも私もあの男の人に会うのは初めてだから何が本当なのか何が嘘なのか 判断のしようがいと思うけど」
「ただ私に1つだけ言えることがあるとすれば男の人の最後のあの怯えは普通じゃなかった」
「やっぱりそうですよね」
「でそれがどうかしたの?」
「いや別に特に何かってわけでもないんですけど」
「都合がよすぎるんじゃないかなと思って」
「都合が良すぎるどういうこと?」
「あの男の人が言ってる会社をクビになっていつその借金を肩代わりしてくれる男の人と出会ったのかはっきり分かりませんけど」
「偶然借金を肩代わりしてくれる人が目の前に現れるなんて都合が良すぎると思いませんか?」
「確かに話だけ聞くと都合が良すぎる話だと思うけどそんな偶然が起こらないとは言い切れないんじゃないかしら」
「もちろん話を持ちかけてきた男の人は途中から、この人を宗教に入団させようって考えに変わったかもしれないけど」
「男の人と会ったのは偶然でおそらく宗教には計算した上で入らせ何らかの形で闇金と繋がり,あるいはもともと繋がっていてその人にお金を貸し出すようにあらかじめ頼んでおいたってところか知らね」
「確かにそれでも納得できなくはないですけど…」
そんな話をしながら適当にブラブラあたりを見回しているといつの間にか服を売っている店にたどり着いていた。
「少しこの中見て回りますか?」
車椅子を漕いた手を止め尋ねる。
「そうね少し見てみようかしら」
「無月さんってずっとその高校の制服着てますけど他にどんな服持ってるんですか?」
「この制服以外で私が持ってる服ってそんなにない」
「店に入ってから言うのもあれだけど私自身そんなにファッションとかに興味があるわけでもないから」
「家には上も下もシンプルな服が1週間分と呼びしかない」
店の中にある服を一通り見た後その店を出た。
「何か気に入った服とかありました?」
「いや特になさそうだった」
「可愛い服が多すぎて」
「買ってきればいいじゃないですかその可愛い服を」
「私があの店の服を着たら多分見た目負けすると思う」
「そういうもんなんですかね」
「そういうものよ」
歩いていると無月が店の横にある色々なアクセサリーが飾られたショーケースの中を覗き込む。
「少し見ていきましょうか?」
「気にしなくていいわただ見てただけだから」
「気にしなくていいですよ、見るだけならただなんですから」
それからその店に入た。
それにしてもあの人の借金を肩代わりする代わりに宗教メンバーの1人の男が意図的に宗教に入団させてた場合他の宗教メンバーも似たような手口で入会させられているということも考えられる。
俺がそんなことを考えていると店の中にあるショーケースの前で再び足を止める。
ショーケースの中を軽く覗き込んでみるとそこには可愛らしいデザインのイヤリングがいくつか並べられていた。
「もしよかったら俺が買いましょうか?」
「いいわよ別にそんなことしてもらわなくて」
相変わらずの無表情なので本当は欲しいのかどうなのか判断がつかない。
「いつも色々やってもらってるお礼ですよ」
そのショーケースの中にある商品は300円から600円ぐらいのものなので全然問題なく変える。
「それじゃあこれを買ってもらおうかしら」
少し考えたような表情をした後、言って指差したのはショーケースの中にある綺麗な雪の結晶のデザインが施されたイヤリングだ。
店の店員にショーケースの鍵を開けてもらい中にあるイヤリングを受け取り会計する。
「彼女さんへのプレゼントですか?」
女の店員がそう言いながら少し後ろの方にある椅子に座って待っている無月を横目で捉えながらからかうような口調で言う。
「…ただの知り合いです」
少し間を開けて言ったことでどうやらそれを照れ隠しだと勘違いしたらしくさっきよりも店員の顔がにやけている。
一応ちっちゃい袋にそのイヤリングを入れてもらい店から出たところでそれを渡す。
「ありがとう」
「気に入ってくれるかどうか分かりませんけど」
「私が自分で選んだものなんだから気に入らないも何もないでしょう」
「早速つけてみてもいいかしら」
「ええ、どうぞ」
手渡したその袋から買ったイヤリングを取り出し両耳にそれをつける。
「どうかしら?」
「似合ってると思いますよ」
いつもあまり表情を変えない無月ではあるが心なしか少し笑ったような気がした。
きっと誰かにプレゼントをもらったことがないから嬉しいんだろう。
「そういえばあなたってこういう場所に普段遊びに来ることってあるの?」
「俺は普段あの家に引きこもってるんであまりないですね」
「でもなんでいきなりそんなことを?」
「銭湯に行く時とか情報集めに行く時以外、外に出てるところなんとなく想像できなかったから」
「確かに普段から外に出てるかって言われたら出てないですからね」
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