第9話地獄へ通じる道
「悪いな毎回夜に押しかけちまって」
そう言いながら座布団の上に座る。
家の中に椅子は無月が座っているもの一つしかないので座布団の上に座ってもらっているのだが地面がフローリングなので少し痛くないか心配だ。
「毎回毎回仕事しながら俺たちが必要な情報を探ってもらってるんだからそのぐらい気にしなくていい」
「そんなことより足フローリングに直接当たっていたくないか?」
「大丈夫だ気にするな」
「さっき銭湯で渡した紙は見てくれたんだよな?」
確認をするような口調で言ってくる。
「確かにちゃんと呼んだがあれだけじゃなかなか正直言ってどういうやつなのかもわかんなかったし情報を使ってどうしようが、策略も立てられなさそうだった」
あれは今俺たちが探している男についての情報というよりただ大雑把に宗教をやめるまでの流れを書いた紙切れだ。
「あの紙に書かれたいきなり宗教をやめたっていう部分は気になったけど」
「そもそも私たちは調べてくれた人の顔もわかんないから接触しようにも接触できませんし」
「2人がそう言うと思ってさっき新聞記者の方の会社に戻って調べてきたよ」
そう言って1枚の写真をテーブルの上に置く。
その写真に写っていたのはごく普通の40代ぐらいのスーツを着てメガネをかけた正直言って特に何の特徴もない暗めな雰囲気の男だった。
「この男が銭湯で話してた男か?」
「そうだ」
「別にその男と接触するのはいつでもいいと思うがなるべく早い方がいいだろう」
個人的にはもうちょっと情報を集めてからの方がいいんじゃないかと思ったがこれ以上何かを調べても特に目新しい情報は出てこないような気がする。
「明日の朝9時にでもその男に会いに行ったらどうだ」
「でも私たちはこの男がどこにいるのかわかんないんですよ、接触しようにも接触できないじゃないですか」
「その男がどこに住んでいるのかまでは特定できなかったがよく通る場所なら特定できた」
「その男はなぜか会社の出勤時間よりだいぶ前から駅のホームに向かってるんだ」
「その駅のところに向かう時に通る道がここから少し離れたところにある古本屋の店なんだ」
「俺が依頼してるから今更言うのもあれだけどさっきの今でよくこんなに情報を集められたな」
この男のことだから仕事している以外の場所にも太いパイプを持っているんだろう。
むしろ仕事帰りの人間関係の方がかもしれない。
「いくら新聞記者として働いてて普通の人があまり知らない情報を持ってるからってそんなに簡単に集めた情報を閲覧できるもんなのか?」
俺は新聞記者のことについてよくわからないから何とも言えないがおそらくもうお蔵入りになった気密事項の内容だって中にはあるはずだ。
「安心しろ俺は会社の中じゃ完全なダメ社員だからないちいち俺が何をしてるかなんて会社の人間は気にしてねぇんだ」
笑い話でもするような調子で言う。
「それはそれでどうかと思うが」
でも正直言ってそのおかげでただの一般人が普通は手に入れられない情報を手に入れられているのだからここは素直にお礼を言っておこう。
「ありがとうこの情報は大切に使わせてもらう」
「ああ、そうしてくれ」
「本当だったらお前たちの保護者として一緒に同伴したいぐらいなんだが、なぜかこのタイミングで毎回毎回仕事が入っててな、悪いが2人で行ってきてくれ」
「分かったそうする」
「無月さん明日って何か予定あります?」
「明日は何も予定入ってないから明日その人の話を聞きに行きましょう」
次の日。
俺たちは午前9時を回る前に家を出て少し遠くの方にある古本屋の店の前まで向かう。
古本屋の道の前でしばらく待っていると、勇輝が言っていた通り写真に写っていた男がこっちに向かって肩を落としながらゆっくり歩いてくる。
まだ仕事に行っていないはずなのに明らかに疲れきった表情を浮かべている。
その男が着ている黒いスーツと赤色のネクタイが所々汚れていてよれてしまっている。
よくある仕事に行きたくないという雰囲気とは少し違う。
俺たち2人はごく自然な感じでその男の前に立ち俺が声をかける。
「ちょっとすいません」
「はい…」
声をかけると本当に疲れ切っているのか聞き取れるか聞き取れないかのギリギリのかすれた声で返事を返してくる。
「あなたが前に所属していた天玄天応という宗教のことについて少しお話を聞かせていただきたいのですが」
「俺の前でその名前を口にするなーーー!!!」
今までおとなしそうな雰囲気だった男がまるで別人かのように怒鳴り声をあげる。
いきなり怒鳴り声を上げたことで周りにいる通行人のほとんどがその男に視線を向ける。
男は男で自分からそんな大きな声が出たことに驚いているようだった。
だが俺はその男に宗教の名前を言って態度が急変したことでこの男が何か知っているんだと確信した。
男は気まずそうな表情で辺りを見回した後矢継ぎ早にその場を去ろうとする。
俺はその男の裾を掴む。
「ちょっと待ってください少しだけでもいいので話を聞かせてください」
「すいませんこの後仕事があるので」
顔だけを向け言って俺が掴んでいた手を振り払う。
その表情はまるでもうこの件には関わりたくないというような恐怖の表情だった。
「まだ仕事に行くには2時間ほど時間がありますよね?」
男が1歩足を前に出したところで止めゆっくりと今度は体ごと俺の方に向ける。
その驚きを宿した目は何でお前がそんなことを知っていると言いたげだ。
「少し近くのカフェでお話を聞かせてくれませんか?」
冷静な口調でそう言うと男は諦めがついたのかその場を去ろうとすることはなく無言で俺の言葉に頷く。
「3名様でよろしいですか?」
はいと俺が短く言葉を開始席に案内してもらう。
「それではお座りください」
「ありがとうございます」
「何か頼んだりしますか?」
「朝ごはんは食べてきたのでいりません」
俺からあからさまに目をそらしながらそう答える。
いきなり声をかけてしまったとはいえそんなに怯えられるようなことは何もしていないが。
あの宗教の中にそれだけやばい秘密があるということか?
「いくつか質問したいことがあるんですけど聞いてもいいですか?」
確認の言葉を投げかけるとわずかに体を震わせる。
少し間を開け静かに頷く。
「それではまず一つ目あなたはなぜあの宗教に過去所属していたんですか?」
それから一言も話さず俺も何も言わず男が何か話してくれるまで待ち続ける。
それからたっぷり3分ほどの間を開け男がようやくその重々しい口を開いた。
「俺は…宗教に入る前500万の借金をしてたんだ」
「どうしようかと家族と途方にくれる毎日」
「そんなある日俺が仕事を首になり家族にどうやって説明しようかと公園のベンチで頭を悩ませてた時…1人の男が俺に声をかけてきたんだ」
「男は俺にこう言ったあなたの借金を肩代わりしてあげましょうかと」
「もちろん俺だって怪しいと思ったさだけどもう頼る当てもない状態だった」
「俺はまさに藁にもすがる気持ちでその男に頼み込んだ」
「男が言ってた通り俺の借金は無事完済された」
「その時の俺は泣くほど喜んだ実際に子供みたいに泣きじゃくったさこれでやっと平和な毎日が戻ってくる借金地獄に苦しまない普通の生活が戻ってくる」
「そう思ってた…」
「だけどその男に借金を払ってもらう前に1つ条件を出されたんだ」
「私があなたの借金を無事に払うことができたら私が所属している宗教に入団してくださいって」
「無事に借金を肩代わりしてくれたしその人に対して恩もあったからまさか断るわけにもいかなくてその宗教に入団したんだ」
「そしたら…」
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