シュウトくん⑥

 .





「……そんなこと、ありませんよ……」

「……え……?」

「シュウトくん、言ってました。『お母さんにはいつも感謝してる』って」

「何で……?」

「『毎日、家の家事ややんちゃな弟妹の世話で忙しくて疲れているのに、毎日必ず自分のところにちゃんとお見舞いに来て、僕を見てくれる。それが一番、嬉しいんだ』って」

「……嘘……」

「本当ですよ。こんなこと、嘘ついて何になるんですか……」

「……っ……そんなの……当たり前じゃない……。大事な息子なんだから……」

「…あっ! これ、わたしが言ったこと内緒ですよ?

わたし、シュウトくんに『このこと、絶対にお母さんには言わないでねっ!?』って、口止めされてたんですから」

「……分かった……。さくらちゃん、ありがとう……」


「―――あっ、お母さんっ!!」


 その時、ちょうどシュウトくんが車椅子で大部屋の病室に戻って来た。


「あらっ、シュウト。戻って来るの早かったわねっ」

「うんっ。今日はリハビリが思ったより早く終わったんだ」

「そっか」


 シュウトくんのお母さんを見たら、シュウトくんのお母さんからは涙も泣き顔も消えていた。

 母は強し、とはこのことか。


「じゃあ、シュウト。お母さん、今日は帰るわ」

「え、もう?」

「うん。シュウトの顔見たし。下の子たち家に置いて来たし、洗濯物も外に干しっぱなしだからね」

「分かった」

「シュウト。明日もお母さん来るからね。さくらちゃん、じゃあね」

「あ、はい」


 そう言って、さっさとシュウトくんのお母さんは帰って行った。



 シュウトくんのお母さんが帰った後……。


「………。ねぇ、さくらちゃん」

「んー?」

「お母さんと何か話したの?」

「なんでそう思うの?」

「何かお母さん、すっきりと言うか……何かに吹っ切れた感じだったから」

「あははっ。そうかもね?」

「え、お母さんと何言ってたの!?」

「ひ・み・つ」

「えー」

「シュウトくん」

「何?」

「わたし、シュウトくんに負けないから」

「え?」


 わたしは―――自分に逃げていた。

 だからわたし、明日からちゃんとリハビリ受けるね。

 負けないで、頑張って、歩行器が無くても自分の足で歩けるようになるから。

 ―――シュウトくんの分も含めて、地の上を自分の足で歩くから。


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