真相④

 .





「―――しっかし、さくらの奴、いくら女でもトイレ長すぎない?」

(……ヤバッ!!)

「そうだな。極度の方向音痴だから、この病室に戻って来れないんじゃねーのか?」

「トイレ、この病室を出て右に行ったらすぐそこにあるけど?」

「さくらはアホだ!

自分の病室の番号分かんなくなったんじゃね?」

「さくら、聞いたら怒るよ。…まぁ、充分にあり得るけど」

(すいませーん。わたし、病室の前にいますー。お父さん、お母さん)

「ただいまぁ~」


 わたしは空気を読んで、自分の病室に入った。


「トイレから戻って来るの、ずいぶん遅かったねぇ?」

「あははははっ。あれ、お父さん。来てたんだ」

「よっ! さくら。まさか、トイレからこの病室までの行き方が分からなかったんじゃないのか?」

「ち~が~い~ま~す~」

「どうだか」


 すごい……。

 お父さんもお母さんも、最初から何にもなかったかのように、わたしと話してる。

 さすが親だな……。





 ―――その後、入院中は何にもなかったように振る舞うのは大変だった。

 辛かった……。

 だってあの時、わたしが女の子が大きな湖の先にいってしまうのを、ちゃんと止めれていれば……って。

 悔やんでも悔やみ切れないよ……。

 でも、こういうわたしのことを考えて何も言わないお母さんを見たら、くよくよしてられないって思った。

 だけど、独りになったらわたしはベッドの中で布団をかぶって泣いた。


『……ゴメンね……』


 ……女の子に届いているか分からないけど、何回も何回もわたしは謝った。


.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る