短編小説 恋を食べたらお腹壊した


私はファ〇マのファ〇チキに恋をしている。


突然の告白申し訳なく思う。こんな冒頭で始まるのもどうかと思う。

こんな小説を書いて何を伝えたいか。

そんなもの特に無い。


恋の価値観とは。


いつしかのクリスマスの日、塾講師のアルバイトが終わって、ファ〇チキを10個買って一夜にして食べようとしたときがある。

そのとき、約6個目にして、僕の口が、恋をしていたファ〇チキを頑なに拒んだ。唾液はそれを求めるものの、脳細胞が危険信号を発振した。それでも食べ続けた結果、どうなったかは想像に任せる。そして1年近くもの間ファ〇チキを受け付けなくなった。


つまり、恋は【ときどき】だから価値がある。ありふれた恋は次第に腐敗していき、価値を見失う。ちなみに今ではファ〇チキは1週間に1回と決めている。


そしてその価値観は、私の趣味である小説も同じだ。


恥ずかしながら私は趣味で小説を書いている。恋愛(恋哀)小説というジャンルを、ここ8年間書いている次第だ。

人生小説最後の『最も簡単な恋立方程式』を書き終え、とうとう恋愛(恋哀)に関する価値観に限界が訪れた。


それからというもの、既存の小説を改稿したり、誤字脱字訂正する日々が続いたりと新作小説に手をつけられない日常が続いていた。

まぁ単純にネタ切れという感じだ。色々な人から与えられた愛(哀)の価値は描ききってしまった。


だけど、迷走する日々に、僕は大切な1つの恋哀を忘れていたことに気がついた。

昔、それは大切な想い出だったはずなのに、色々な人と出会う中で部屋の片隅に転がってしまっていた。


この前、たまたま掃除をしているときにそれを見つけた。懐かしむ想いと、形にしたいという思い。


だからそれを書いて私の描く恋哀小説は最後にしようと思う。


では本編に行こう。


・・・・・・・・・


題名【恋を食べたらお腹壊した】


その日、君を食べた。


別に空腹だったという訳では無い。


好きだったから。君の味が気になったから食べた。


好きなもの━━━例えばデザートだったら多少満腹に近い状態でも食べようとする。デザートは別腹とかよく言うのはいわゆるそれだ。


ちなみに好きなデザートはティラミス。美味しいよね。ほろ苦いココアパウダーにクリーミーなザバイオーネクリーム。


さらに言えばティラミスはイタリア語で「私を引っ張りあげて」や「私を元気づけて」を意味するらしい。


アドカンペオルによって発明されたらしくて…、って話が逸れてしまったようだ。私の癖でもあるので、多少なりとも話がズレてしまうのは許して欲しい。申し訳ない。


で、なんだっけ。あ、そうだ、


君と出会った日のことを話そうと思う。


その日は会社が早く終わった。上司から帰宅指示が促され外に出る。


一人暮らしの家は退屈なので、普段通らない道を迂回して帰ることにした。大体の家の方角を目指して狭い道をくねくねと進んでいく。


小さな公園にたどり着いた。古びた自販機でアップルティーを選択する。蜘蛛の巣が張られた取り出し口から慎重に取り出す。ベンチに座ってアップルティーを流し込む。好きな味だ。


公園の横を流れる川から聞こえる水の音と、上からの木々の音が重なり合う。遊具で遊ぶ子どもたちの声が優しく調和。好きな音だ。


・・・ってまた話が脱線しそうだ。まぁ簡単な話そこで君を見つけた。そして君に恋をした。


何も変わらない日常の循環。生きている理由も分からないのに生きる努力する。だからといって死にたくもない。


僕は運命の糸に引っ張られるように君を家に持ち帰った。


本当はいけないことは知っていた。だからといって見捨てれば君は死んでいたのかもしれない。


元気になるまで、それまでは。そんなことを自分に言い聞かせた。


・・・・・・・・・


僕は君の名前を知らなかった。僕は君に恋(こい)という名前を名付けた。


一人暮らし用のちっぽけな部屋に一緒に住むのは大変だったけれど、そんなことは努力次第でどうにでもなった。生活環境を整えるのには苦労したけれど、恋と過ごせる価値に比べれば生活費なんて端た金だ。


そして恋が家に来てから約2ヶ月がたったある日、僕に彼女ができた。


人はモノを手に入れたら、その時は満足するけれど、時間が経つにつれ、さらに良いものを欲しがる。それが人間の欲求というものだ。


これは恋愛だってそうだと思う。ずっと好きだった人と付き合えたとしても案外そんなものだと感じてしまう。


好きという感情では相手の長所しか見えていない。付き合うことで相手の短所がだんだんと見えてくる。


もしその短所を長所として持っている相手を見つけたとき、元々好きだった人への気持ちは減衰してしまう。


だから恋よりも彼女に惚れてしまった。その想いを抱いてはいけない気持ちはあるものの、抑えられなかった。


彼女は僕の悩みを解決してくれた。

彼女は僕と一緒に外に出かけてくれた。

彼女は僕のために料理を作ってくれた。


恋は僕の悩みは解決してくれない。

恋は僕と一緒に外に出かけられない。

恋は僕のために料理は作ってくれない。


彼女との楽しかった今日を振り返りながら家に帰ると恋がいた。僕が帰ってくると嬉しそうに近寄ってきた。


それがなんだか辛かった。


恋を家に持って帰ったのは僕だ。恋を育てることは僕の責任だ。


でもその時既に恋に対する気持ちはなかった。


だんだんと家に帰ることが減って行った。彼女との時間が増えていった。


クリスマスの日、彼女の家に泊まった。普段飲むことの無いお酒を、調子に乗って大量に飲んで一夜を過ごす。


次の日、まだ酔いが冷めない中、家に帰った僕は動かなくなった恋を見つける。恋は息もせずに横になっていた。


僕は酔っていた。大切にしてきた恋を見て思った。


【⠀恋の味が気になった。】


だから僕は動かない恋を台所に運んだ。


そして君を食べた。


動かない君を食べた。


【恋】を食べた。


そしたら、次の日の朝。


・・・・・・・・・・


お腹壊した。


「お腹痛てぇぇぇぇすんげぇお腹痛いんだけど、ちょっと待って、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいお腹痛すぎる」


僕は腹痛が止まらなくなった。別れた彼女に連絡をする。彼女は渋りながらも駆けつけてくれた。


「どうしたの大丈夫?」


「食べたものが不味かったらしい」


「一体何を食べたの?」


「恋を食べた」


「え?」


彼女は台所へと向かった。


そこには綺麗に骨が置いてあった。


「本当に馬鹿なの?」


彼女に怒られながら僕は意識を無くした。


・・・・・・・・・・・・・・・


恋は、


いや、


鯉は食べてはいけない。


これが僕の最後の恋哀小説。


いや、最初で最後の鯉哀小説。


題名【鯉を食べたらお腹壊した】

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