想空箱(ごみばこ)

ましゃき

短編小説 落し物

私は公園の中で一人泣いていた。友だちとお揃いのキーホルダーを無くしてしまった。鞄に付けていたのが原因だったのかもしれない。


午前は友達と遊んで隣町まで来て、午後は塾に行っていた。キーホルダーが無くなっていたことに気づいたのは塾が終わった後だった。


いつ落としたのかも分からない。母に連絡をしてしばらく公園で探す。でも何時間探しても見つからなかった。


「何泣いてるの?」


顔を上げるとサッカーボールを持った少年が不思議そうにこちらを見ていた。


私は恥ずかしさから後ろを向いて涙を拭う。


「キーホルダー無くしちゃって」


「そんなことで泣いてるの?」


「だって大事な物なんだもん!」


理解できないという表情で私を見る少年。私は叫んでしまったが、そう思われてしまうのも仕方がない。私はそこまでこだわる理由を簡潔に話した。


「遠くにいる大切な友達とお揃いのキーホルダーなの」


「もう5時になるよ。まだ探すの?」


「うん。6時までは探す」


少年はサッカーボールを地面に置いた。


「わかった。俺も手伝うよ」


「えっ?」


「だって大切な物なんでしょ。見つけなくちゃ」


少年は、初対面だというのに、無くしものを一緒に探してくれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


結局キーホルダーは見つからなかった。少年は申し訳なさそうに言った。


「ごめん、見つけられなかった」


「全然、大丈夫だよ。一緒に探してくれてありがとう」


少年は悔しそうな表情でまだ辺りを見渡す。もう暗くなるし帰らなくてはならない。


少年は聞いてきた。


「小学校ってどこの学校?」


「咲桜小学校。隣町の」


「少し遠いね。俺、ここの近くに住んでいて、よくここの公園来るから時間あったら探しておくよ」


「ありがとう」


私は少年と別れた。名前を聞いておくんだったと後悔した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


それから約1年が経った。


小学6年生の5月。キーホルダーは突然戻ってきた。


小学校の朝の会のとき、担任がそれを持って聞いた。


「落とし物が届いているぞ。これ落とした人はいるか?」


「あっ!」


それは私の落としたキーホルダーだった。


すっかり諦めていたキーホルダーが担任の先生の手にあった。


「私のです。でもなんで」


「よかった。昨日、違う小学校の子が届けに来たんだよ。『たぶん6年生の女の子のだと思います』って」


「その子の名前とかわかりますか?」


「ごめん。すぐ帰っていったから分からない」


多分ずっと探してくれていたのだろう。私はキーホルダーを大切に受け取った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私は少年に会いたかった。ありがとうと直接伝えたかった。


塾の後に何度か公園に行ったが少年に会うことはなかった。


分かっていることは、同い年でこの近くに住んでいるということ、サッカーが好きということだけだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その後、私は中学受験に合格。友達ができるかが不安だった。


入学式。緊張する中、指定された席に座る。スクール鞄には大切なキーホルダーを付けていた。


そこに男の子が歩いてきた。手元に持っている座席表と私の隣の席を照らし合わせる。私は男の子を見て目を見開く。男の子は不思議そうに見ていたがキーホルダーを見て驚く。


「もしかして」


「うん」


私は、これからの中学校生活が楽しみになってきた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


未来は明るい

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