気になる人

@rabbit090

第1話

 「ここが、あの有名な町なんだね。」

 「そう、てかそんなことどうでもいいけど、お前金持ってるの?」

 「持ってない、当たり前じゃん。」

 「馬鹿だな、ここまで来ておいて。じゃあ入れねえよ、誰も入れてくれねえよ。」

 「分かってるって、そんなのハナから期待している馬鹿じゃねえ、こんなもん、くぐり抜けちまえばいいんだ。」

 「…ち。」

 そんなこんなで、俺とコイツはこの町、この奇妙な町「うるわ」へとやって来た。

 知り合いは、ここで何人もいなくなっている。理由は分かっていない、けれどみな、ここに行けばそうなってしまっても仕方がないものだと思っている。

 「あいこはさ、ここに来て帰ってこなかったんだよな。」

 「そうだって、だから来たんだろ?」

 「まあ、そういう目的もある。」

 冗談めかしているが、俺たちはあいこがいなくなったことなど、正直どうでもよかった。しかし都合として、いなくなったあいこを探しに行くとかなんとか、理由をつけなければここまでやってくることができなかった。

 「しかし、あいこのお母さんも殺伐としていたよね。だってさ、あんなに不良でギャルだったからって、いなくなってんだぜ?なのに、あいこのことを聞かれても、めんどくさそうに受け答えしていて、ちょっと、嫌だったな。」

 「は、そんなの。本音なんて分からねえよ。それに、俺たちは別に、あいこを探しに来たわけじゃない。俺たちは、逃げて来たんだ。」

 「ああ、そうだよ。」

 目を見張って、前を見る。

 長いこと歩いてきたせいか、足は棒のようになっており、歩くことすら難しかった。

 

 「うるわ」は、かなり古くからあった。

 この周辺は砂漠になっていて、とてもじゃないが町など作れる環境にはなかった。けれど、だからこそここは、まったくおかしな町なのであった。

 辺境の地にある、異端の町なのだと触れ回ると、きっとろくでなしが集まっているのだろうと思われるのだが、ここは違った。世界中で成功者と名がつく人間はみなここを目指していた。

 なぜだろう、お金も、人も、全てを捨ててこんな場所に来るなんてどうかしている。

 けれど、ここはいつも賑わいを忘れることがない。


 とりあえず、適当な場所に寝る場所を確保した。

 あいにく、同じような人間がいっぱいいて、特に目立つことなど無かった。格差が激しい、なんか窮屈な町なのかと思っていたが、ただのそこら辺にあるようないつも通りの光景がそこには広がるばかりだった。

 俺たちが逃げてきた理由は、単純だった。

 俺たちはドが付くほどの悪で、そこではとても有名だった。

 だから、まあ、そのせいで誰が犯したかもわからないありきたりな罪を俺たちにかぶせて、とっとと小さい部屋に閉じこもってもらおうという算段だったらしい。

 もちろん、俺たちはそんなことはしていない。

 けれどそのような、話の通じない場所にいるくらいなら、とっとと逃げ出してしまおうと画策したのがこの出奔の始まりだった。

 というか、あいこのことは都合上何か理由をつけなければあそこを出れなくて、ついた嘘のようなものだった。

 しかし、今目の前で、ぼんやりと座っている女は、どう見てもあいこだった。 

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