藤石宏明の担当編集者が保存していた留守電記録

[電子音声] 四番目の、メッセージです。一月、二十日、午前、四時、三十三分



 ザ――――(強い風のような音)

「はあ はあ あっ す すんません」

「俺です 藤石です」

 ギャアギャアギャアギャアギャア(カラスの鳴き声らしき音)

 ザ――――ザッ――――(強い風のような音)

「ちっ ニタニタ笑いよって あっあの ちゃんときこえとりますかね?」

「すんません ほんますんません くそボケが なんでや なんでなん」

 アアオウアアオウアアオウア(カラスの鳴き声のような音)

「に 二宮さん?(編集者の名前)」

「月末までに仕上げるいうたけど、やっぱムリみたいやね ムリというか」

「俺はなんか 失敗してもうたみたいでして もう書けんかもしれんねや」

 ザ――――ザッ――ザッ――――(強い風のような音)

「くそ なんでこんなんなってしまったん ヒッ、ヒヒヒッ(啜り泣く音?)」

「書いとったんか 書かされとったんか もうわからんようになってしまって」

「もしも後者やったら 俺は 俺は ちくしょう 知らんとけば良かったんに」

「頼む これで消えてくれ 頼む 頼みます おねがいです どうか 消えて」


 パチッパチパチパチッ(何かが燃えて爆ぜた音)


 ザ――――――――――(強い風のような音)

 ザ――――――――――(強い風のような音)


「あかんか これでもお前は」

「ほんならもう 耐えられん 俺は」


 ザザ―――――――――(強い風のような音)

 ザッザッ―――――――(強い風のような音?)



「だだダ ピツ、ぴつうしますう 断筆す しぃい ます うううう」


 ギィヤァギィヤアギィヤァ(カラスの鳴き声らしき音?)



 [電子音声] もう一度聞きたい場合は、一、を、次のメッセージを再生する場合は、二、を押してください。保存したメッセージを削除する場合は、九、を押してください。終了する場合は、ゼロ、を押してください。

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