はじめに

 まずは先んじてお礼を。

 本作に興味を持っていただきまして、誠にありがとうございます。


 本作は、2022年10月から2023年4月までの約半年間、私の身の回りで起こった不可解な一連の出来事を、可能な限り当時のままの形で記録したものです。


 中には権利者などに許諾されなかった内容や、そもそも性質上許諾を得られるはずがない内容もあり、そこに関してはある程度のフェイクやぼかしを入れております。結果、不明瞭になってしまった部分もありますが、どうかご容赦願います。


 実のところ、今回のことを記録として残すにあたって、どのような形式でお伝えするのが一番良いのか、ずっと悩んでおりました。きっと概要を把握してもらうだけならば、何もかも時系列に整理して説明するなり、もしくはいくつかの個別の事件ごとにまとめて紐解いていく方が簡単なはずなのです。


 ですが私は、遠回りになったとしても「私が知った・経験した」順番でお伝えしていくことにしました。そうすることこそが、この記録の内容を正確に理解して頂ける可能性が最も高い、そう思ったからです。


 野暮な始まりになり大変恐縮ですが、まずは私のことを紹介させてください。


 私は書いたものを目についた文学賞に送りつけては落胆するのを繰り返し、されど小説投稿サイトは今ひとつ使い勝手がわからずに触れてこなかった、いわゆる古いタイプのワナビーでした。それが数年前、幸運なことにとあるレーベルの編集の方に拾ってもらい、紆余曲折がありつつも少し前にデビューするだけは出来ました。出版不況という言葉ももう擦り潰されるほどに使い古された昨今において、私のような人間は段々と珍しくなってきているそうですね。


 ただ、昔と違って大きな賞を受賞した作品ですら売上が伸び悩むこともあるというのですから、認知度も何もないそれこそ筋金入りの無名新人の作品がどれだけ売れたのかというと……、やはり、なかなかの苦戦をしたようです。


 作家はなることより、あり続けることの方が難しい。これは大御所先生の金言です。どれだけ当人が魂を削り凄まじいものを作り上げたという自負があろうと、そこにある程度の注目がついてこないのであれば物事は成り立ちません。それを果たせないのであれば、驚くほど雑に見放されて捨てられるものです。


 つまるところ今の私は、編集者の「なんだかんだコイツは無理難題を与えてもこなしてきたし」という儚い同情と、「宝くじくらいの確率とはいえ、次作は当たるかもしれないし」という淡い期待によってどうにか首の皮一枚つながっている、そんな感じの弱小作家というところが正確な立ち位置でしょうか。


 もちろんその程度の作家業だけではろくに食べていけません。誇りもへったくれもなく、別名義で興味のないジャンルの薄っぺらな記事を依頼された分だけ量産することもしますし、書くこととは全く無関係な肉体労働などをして(むしろ稼ぎとしてはそれが一番安定している)、どうにか食いつないでいるのが実情です。夢を叶えた先に広がっているのは、わりとシビアな地続きの現実でした。


 それでもこうしてお話じみた文章を紡いでいくことは好きで、生活に支障が無い限りは作家業を続けていけたら――というのが、私の嘘偽りのない行動原理でした。そのためにも「弱小」という不本意なことこの上ない枕詞を捨て去るべく、デビュー作の出版からそれほど時間を空けずに次作の構想を開始しました。


 今度こそ凄い作品を世に放たければならない。さもなくば、きっと私は雑に見放されて捨てられる――そんな予感が的中していることを暗に匂わすかのように、編集者は次作も付き合うと言いつつも以前ほどのやる気や熱量を見せなくなっていました。


 私は内心焦りながら「こういう話はどうか」「ああいう話はどうか」と提案するものの、物語を作るにあたっての最序盤の案出し段階でなかなかGOサインが出ず、プロット(=物語を作るにあたっての骨格となる説明書のようなもの)の作成もままならずにやきもきしていたのが、2022年10月に入った頃です。


 衝撃的で、リアリティがあって、興味を惹かれて、編集者がGOサインを出したくなるような良いアイデアに繋がる――そんな感じの素晴らしいネタがないか。私は血眼になってネット上のあらゆるサイトを徘徊し続け、時にはある種の不眠症に悩まされてさえいました。きっとあの頃の私は、おかしくなっていたのだと思います。


 転機が訪れたのは、どことなくオカルトの匂いがするいくつかの記事や投稿に、うっすらとした奇妙な共通点があることに気づいたあたりでした。

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