人間と幽霊

霜月餅菜

第1話 はじまり?

 自分は死んだらどうなるのだろう。

 いつからかずっと考えていたことだ。

 宗教を信じることなく生きてきた私には、知ることのできない答えだった。

 過去形なのは身を持って知ったから。


 ――幽霊になれるのだと。





「ふぁあ……」


 大きなあくびだ。

 おかしいな。さっきまでたくさん眠ってたはずなのに、まだ眠いだなんて。


「あれ……?」


 いつも枕元に置いてあったはずの日記帳が無い。

 寝ぼけて床に落としたのだろうか?


「……床には、ない」


 どこにいったのだろう。

 あの日記には、お姉さんとの楽しかった思い出が書いてあるのに。


「――まさか、盗まれた?」


 今寝ていたベッドしか、部屋には置いていない。

 壁に1つだけ窓があるけど、今は閉まっている。

 ドアなんてこの部屋には存在しない。


「……お姉さん……」


「――呼んだ?」


 突然の求めていた声に驚き、窓を見上げる。

 いつものように、窓枠に腰掛けているお姉さんは、とても眩しく見えた。


「起きる前にって思ってたけど、少し遅れたみたいだね。……はい、これ」


 窓枠から降りてきて、手に物を乗せられる。

 お姉さんから渡されたのは、探していた日記だった。


「……これ、読んじゃった?」


「まさか。それと同じ物をプレゼントしようと思ってさ。ページ、残り少ないだろう?」


 この日記帳はお姉さんと会った日に、『髪の色と同じだから』と言ってくれた物。

 ページが残り少ないから、書く量を減らすか迷っていたところだった。


「……ありがとう」


「どういたしまして。……さあ、眠いだろう? もう少し寝なさい」


 見ただけでわかるなんてお姉さんってやっぱり凄いなぁ。


「……うん。おやすみなさい」


「あぁ。おやすみ」





「完全に寝たな……良い寝顔だ」


 そう呟きながら青色の髪を撫でる。


「……よし。行ってくるよ、瑠璃」


 天井付近にある窓から一飛びで外に出る。


 昨日は結界を張っていなかったせいで、日記を盗まれる羽目になったのだ。

 瑠璃の希望を打ち砕こうとする者は殺したが、今日が安全とは限らない。

 瑠璃の幸せを護るためならば、力くらい使えよう。

 二度の失敗などしてたまるものか。


「今日は我らによる会合だけ。全力で護ろう。……お前達、頼んだぞ」


【承知です! 主様!】


 彼らは小さな双子の狼。

 母親が『怪』に身体を乗っ取られていたところに遭遇し、仕方なく殺した。

 そうしたら感謝されて、『一生付いていきます!』と言われた。

 そんな彼らは命令に忠実だ。

 やるときはやるだろう。


【……いつ頃お戻りに?】


「……明るくなる前には、戻ってくる」


 君らはいつまで経っても心配性だな。

 幽霊なんだ。死ぬことはないさ。


 瑠璃がいる限り。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間と幽霊 霜月餅菜 @Shika7737

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ