焼きそば
あああった。祭りに来たならばやはりどこにでもあって店ごとに味が異なる、この焼きそばだ。
不思議なもので府中のくらやみ祭りや新宿の花園の例大祭、神田明神の神田祭、その他にも色々な所の焼きそばを食べたがそれぞれに違いがあってそれぞれ美味しい。
自分が焼きそばが好きだとは言え、それを差し置いてもどこも唸るほどの味があるのだ。
ここ玉川学園前の焼きそばはどうだろう。
時間も時間で既に焼き上がった物しかなかったのだが時間が経ってしまった今でも麺が伸びず、一緒に炒めたもやしやキャベツなどの野菜も張りがあり油の量も多過ぎず少なすぎずちょうどいい量で料理した事がわかる。
そして未だ立ち昇る香ばしいソースの香り、焼きそばのうまみを吸った青のりの上品な香りも心地よく私の事を何も言わず抱きしめる。
これは調理した人の腕の良さの証左でもある。
ただ少し麺の色が薄いように見えソースが少ないのではないかと不安に思ったのだが、これは翌日の夜に実際に食べて全く問題にはならなかった事を付け加えておく。
きっと色が薄いタイプのソースを使ったのかもしれない。
どことなく魚介系の風味が効いてなおかつフレッシュな甘みがある、横手焼きそばソースと正田醤油の焼きそばソースの合わせ技か?なかなかやるではないか。
さて、焼きそばの列に並び始めて早数分、ようやく自分の番が来た。
すいません焼きそば一つ下さい、と私は焼きそばを1つ店員さんに注文するとすぐに「1つね!」と周りの雑音に勝るような声で元気よく返される。
店員さんは作り置きの1パックをひとつ取りそれをビニール袋に入れて受け渡そうとするその間に、私は代金を用意するため財布を開けるが残念なことに小銭が足りないことに気付く。
千円札で支払おうと1枚つかみ取り店員さんへ渡すと、すぐさまつり銭と共に袋に入った焼きそばのパックを店員さんは「どうぞ」と差し出された。
受け取った小銭を財布に入れてビニール袋を受け取り、財布を、ああ。
なんてことだ、店員さんから焼きそばを受け取るともう出店の食べ物で完全に両手が塞がってしまって財布をしまう事が出来ない。
ちょっと買いすぎた、まあでもこれで明日の飯には困らないか。
はー、ゆっくりと引きこもるぞ、こんちくしょう。映画も流してだらだらと過ごすのだ、あー。
出店の軒先を少し借りて他の食べ物の袋を整理しつつ財布をバッグに戻し明日の堕落した生活に思いを馳せていると、偶然視界に入った腕時計の時間にハッとする。
通りの出店をフラフラしてただけの筈なのだが、あの店を離れてからもうあっという間に30分近く経っている、もう時間がないじゃないか。
本当に行かなければならない所に行かずして何のために玉川学園前へ来たのか、私は今日ここに来た本来の目的を思い出さずにはいられなかった。
もうフラフラしてる時間じゃない。帰路につくその前に、一番行かなければいけない本来の目的地に向かおう。
玉川珈琲倶楽部に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます