頼まれ事

 店主のマシンガントークに私は呆気にとられるばかりであったが、話を聞いている内に店主の目の中に輝くものが少し溢れ出ていることに気付く。


 ああ旦那さん、そうでしたか。


 店主の瞳から滴が不意に数滴落ちそうになり手で少し拭うと、ようやく店主のマシンガントークは打ち止めとなった。


「あら、ごめんなさい。ついしゃべり過ぎちゃいました。本当に、ごめんなさいね。」


「いえいえ・・・。」


「あなた、まだほかにも回りたい所とか買いたいものあるでしょ?あんまり遅くなっちゃうと売り切れちゃうわ。」


 店主の瞳がまた潤み、声も震え始めていた。


 彼はきっとこの人の事を旦那さんに頼まれて様子を見に来ているのかもしれない。

 やっぱり不思議な奴だ。また会えるだろうか。


「さあ行った行った。また来年いらっしゃい。」


「・・・すみません。これありがとうございました。また来年お邪魔させていただきます。」


「ええ、また来年いらっしゃい。黒すけもきっと来るわ。」


 これ以上彼女の追憶を妨げてはいけない。私にはきっとその権利は無い。


 私は深々と店主に頭を下げてその場を離れる事にした。

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